議員会館内 緊急報告会
日本ODAによるモザンビークの大規模農業開発事業「プロサバンナ」に関する
現地調査報告・緊急声明の発表
議事録&補足資料
*本報告会の模様は以下のサイトでご覧いただけます。
http://www.youtube.com/watch?v=kSNzU32enGg*本報告会の報道については以下。
時事通信 2013年10月1日 「プロサバンナ」
「日本の支援見直し要求=モザンビーク農業開発-NGO」
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201310/2013100100660http://www.jiji.com/jc/zc?k=201310/2013100100648&g=pol&relid2=1_1【日時】2013年9 月30 日(月)16:00~17:30
【場所】参議院議員会館B107
【議事次第】
1. 開会・開催趣旨説明(司会:津山直子(アフリカ日本協議会理事/動く→動かす代表))
2. モザンビーク調査報告
渡辺直子(日本国際ボランティアセンター)
舩田クラーセンさやか(東京外国語大学/モザンビーク開発を考える市民の会)
森下麻衣子(オックスファム・ジャパン)
秋本陽子(ATTACジャパン)
3. 緊急声明文紹介
高橋清貴(日本国際ボランティアセンター)
4. コメント
松本悟(法政大学准教授/メコン・ウォッチ顧問)
若林秀樹(アムネスティ・インターナショナル日本事務局長)
5. 質疑応答
【配布資料】
①緊急報告会議事次第
②日本5団体による緊急声明「日本・ブラジル・モザンビーク政府の大規模農業開発事業「ProSAVANA – JBM」に関する緊急声明」(日本語)(2013年9月30日)
③現地調査報告書目次(案)「ProSAVANA市民社会報告2013-現地調査に基づく報告と提言」
④モザンビーク市民社会組織23団体による声明「プロサバンナ緊急停止のための公開書簡(日本語訳)」(2013年5月28日)
⑤記事「ODAウォッチ:プロサバンナ事業 第1回、第2回」Trial & Erros
⑥記事「HUFF POST WORLD TICAD V:モザンビークの人々から安倍首相に手渡された驚くべき公開書簡」(2013年6月2日)
⑦朝日新聞記事「眠れる大地「緑の実験」」(2013年5月29日)
⑧ProSAVANA事業に関する報道記事・番組一覧
⑨チラシ「生物多様性保全と農業開発:種子を通して考える」(2013年10月18日開催イベント)
1. 開会・開催趣旨説明
津山直子氏(アフリカ日本協議会理事/動く→動かす代表、司会進行)司会のアフリカ日本協議会、津山直子です。本日はお忙しい中お越し頂きありがとうございます。
日本ODAによるモザンビークでの大規模農業開発事業「プロサバンナ」に関する現地調査報告を始める。まずプロサバンナの全体について説明し、次に現地を訪問したメンバーからの具体的な発表をしていく。その後、緊急声明を紹介し、本日コメンテーターとしてお越し頂いた、法政大学准教授/メコンウォッチ顧問で日本ODAについてアドボカシー活動をしてこられた松本氏、アムネスティ・インターナショナル日本事務局長の若林氏からコメントを頂く。まず、外務省・JICAとの協議などでご協力頂いている国会議員のお二人に、簡単にご挨拶を頂ければと思う。
石橋通宏氏(民主党)民主党参議院議員の石橋です。今回呼びかけ議員の一人として名を連ねさせて頂いた。参議院・ODA特別委員会の理事を今期も引き続き務めている。
3月にODA調査団としてモザンビークに行ってきた。その前後の経緯でこの半年間、今回の主催者の皆さんとやりとりをしてきた。この件については引き続きしっかりと対応したいということで、今回参加させて頂いた。よろしくお願いします。
福島みずほ氏(社民党)社民党の福島みずほです。かつて、舩田氏、津山氏らNGOと共に、農薬をアフリカにODAとして供与することが本当に現地に役立っているのか、ということを問題視し、モザンビーク現地に赴き、ODAとしての農薬供与の政策転換を実現させた(注1)。
プロサバンナ事業では大規模農場を作るということで、多くの農民が反対しているという生の声を、前回の院内集会でお聞きした。これはブラジルでやったことをそのまま持ってくることになるのではないか。それは当事者にとって本当に良いことなのか。環境アセスメントや当事者の意思、情報開示が十分でないのではないか。また、当事者は今までの農業ができなくなることを不安に思っているのではないか、という点である。
少なくとも、プロジェクトについての情報開示、環境アセスメントをしっかりとやるべきだと思う。そのことを、地元、NGO、国会と繋げてやっていきたい。一緒にやっていきましょう。よろしくお願いします。
2. モザンビーク調査報告
津山直子氏(アフリカ日本協議会理事/動く→動かす代表、司会進行)ありがとうございました。それでは、実際にモザンビークに現地調査に行ったメンバーから報告させて頂く。
舩田クラーセンさやか氏(東京外国語大学/モザンビーク開発を考える市民の会)東京外国語大学の舩田クラーセンです。モザンビークはアフリカの南東部に位置する。この事業はナカラ港から繋がるナカラ回廊沿いの地域に対して行なわれている事業である。私からはまず、プロサバンナとは何か、ということについて紹介させて頂く。
JICAの資料にある事業説明には、三つの柱に基づいて行うということが書かれてあり、スライドにこれらの柱を記載した。現在二つ目のマスタープラン策定が進行しており、最後の技術協力プロジェクトが始まりつつある。
プロサバンナとは何か、ということについて、この事業を計画立案実施するJICAから沢山の説明を聞き、資料ももらってきたが、未だ全容をつかむのが非常に難しい事業である。配布した朝日新聞の記事は今年5月29日のTICAD直前に出たもので(注2) 、JICAや現地を取材した結果のもので、分かりやすい説明になっていると思う。特に線を引いてある部分を見て頂くと、日本がブラジルを(先行)例として支援しているということが分かる。その理由としてJICAは、かつて日本とブラジルが協力して行なったセラード農業開発協力事業(PRODECER)の成功を、「同じ緯度、同じ熱帯サバンナ地域であり、同じ言語のポルトガル語を使っているモザンビーク北部」に持っていく、としている。
2009年のプロサバンナ事業の(3か国政府代表による)調印の合意文書には、その冒頭に、「日本とブラジルのパートナーシッププログラムに基づいて行われる、熱帯アフリカサバンナの農業開発プロジェクトである」と書かれている(注3) 。この調印のニュースはJICAのHPに掲載されている。そして、この事業推進理由として、「(モザンビークには)広大な未利用の農耕適地が残されている一方、低生産性を余儀なくされる農民が人口の8割を占め、ブラジルのセラードと似ているから」と書かれている(注4) 。
JICAのプロサバンナ事業の英語の説明サイトを見ると、このような絵(写真)が出てくる。JICA曰く、「不毛な」セラードを立派な大豆の一大プランテーション地域にした、だから「モザンビークで余っている農地」もこのようにしようという意図が示されている (注5)。
つまり、プロサバンナの事業立案・形成の前提としては、一つ目に「モザンビーク北部に広大な土地が残っている」、二つ目に「現地小農は生産できず飢えている」、したがって「ブラジルにおけるセラードの経験を生かすべきである」とされている。また、「現地の大農・投資と小農は共存できるし、それを奨励すべき」との前提の下、「投資を通じた小農支援をする」と述べている。
この間、モザンビークの23団体から、「プロサバンナの緊急停止を求める公開書簡」が安倍首相、モザンビーク・ゲブーザ大統領、ブラジル・ルセフ大統領に渡された (注6)。この書簡が出された当時、我々は政府・JICAから、「プロサバンナでは対話を重視しており、プロジェクトは進めていない」という話を聞いてきた。しかし、本当はどうなのか、ということを今回現地で調べてきた。
最後に、「大農と小農の共存」について。JICAがブラジルのアグリビジネス、日本の民間企業と共に現地を訪問した2012年4月(注7) 、その総括として行った報告によると、「プロサバンナを通じて大農と小農を共存させるモデルを確立する」と書かれている (注8)。
以上のことから、①対話は進んでいるのか、②土地は本当に余っているのか、③投資・大農と小農は共存し、Win-Winが現地で形成されているのか、④小農は生産できずに飢えているのか、この四点を調べてきた。
渡辺直子氏(日本国際ボランティアセンター)日本国際ボランティアセンターの渡辺です。まず、調査概要を紹介したい。訪問地は、首都マプートとプロサバンナ事業対象地であるザンベジア州、ナンプーラ州、ニアサ州であった。期間は、(全員が揃った調査としては)2013年8月7日から14日の約一週間(*調査メンバーのうち一部は7月24日から首都、ニアサ州、ナンプーラ州での調査を開始し、8月18日までフォローアップ調査を実施した)。参加者は、本日の報告者である舩田氏、森下氏、秋本氏の他、日本国際ボランティアセンターの高橋氏、そして渡辺。詳しい日程に関しては、8月7日、8日にマプートにおいてプロサバンナに関する三カ国の市民社会(CSO)会議が開催された。7日はクローズドでCSOの戦略会議、8日はオープンでモザンビーク農業大臣や国家開発局代表も終日参加する形の会議があった(注9)。
その後、事業対象地域であるナンプーラ州へ行き、プロサバンナのパイロットプロジェクトとして進んでいると言われているPDIFプロジェクトの事業地を視察し、プロジェクトの担当(JICA)コンサルタントの方(と地元農民や農場オーナー)にインタビューを行なった。次に、六人を三班に分け、それぞれナンプーラ州、ザンベジア州、ニアサ州で現地訪問調査を行なった。その後、これまでプロサバンナ問題の重要な現地アクターとして関わってきている、ナンプーラ州市民社会プラットフォーム(PPOCS-N *注10)の方々と会議をもって調査のフィードバックをし、最後にマプートに戻り、市民社会との振り返りの会議を行なった 。
舩田クラーセンさやか氏(東京外国語大学/モザンビーク開発を考える市民の会)ここで具体的な話に入る前に映像を紹介する。というのも、日本社会に現地農民の声がなかなか届かないというジレンマがあるから。2月に現地農民連合の代表(全国農民連合UNAC *注11)に来てお話をして頂いたり (注12)、5月にはTICADに合わせて再び来て頂き (注13)、TV等による報道もあったが(注14) 、我々が現地に行って見た現実、聞いた話はもっと酷かった。対話の在り方も含めて。我々が(彼らを代弁し)説明するというより、まずは彼/彼女らがどのように言っているかを聞いてほしい。
ここはザンベジア州(グルエ*プロサバンナ対象地)のアグリビジネスが入っている地域。かつて彼女たちは豊かな食生活を送っていた。畑を耕すことでお金を稼ぎ、子供たちを中学校にまで送って寮生活をさせるだけの生産を上げており、一日四食を食べていた。この地域は大変土地が良く水も豊富で、畑は家から歩いて一時間半くらいの距離にあり、毎日通えた。機械に頼らずとも、大きな面積の畑ではあったが、自分の手で耕すことが可能であった。その生活がある日突然変わったという。会社(関係者)がやってきて、ここは会社の土地であると言って土地を奪い、まだ作物が残っているにも拘わらず、目の前で、ブルドーザーでこれらをなぎ倒していった。補償金も十分でなく、一日一回食べられるかどうかという現状にある。土地を奪われ、七人の子供を養えるだけの生産はない。
会社によると、新しい土地を補償するとのことだったが、その土地は沼地で使えるような所ではなかった。そこで現在は、自主的に歩いて三時間ほどの山の向こうに土地を見つけ、耕している(しかし遠すぎて毎日通えない)という。この会社は大豆を生産している企業である。土地の補償額は不十分で、ほとんど食べられていない状態が一年以上続いている。政府は何もしてくれない。「ここは企業の土地だから諦めなさい」と助けてくれない(注15)。これがこの女性の話だ。
先ほど渡辺氏が紹介した8月8日のマプートにおける会議には、(モザンビークの)農民も200人程参加した。この映像の女性も農民であるが(南部ガザ州の農民)、この方が訴えたことは次のようなものだった(注116)。「私は農民である。母である。そして、この農地を守っている者である。しかし、今モザンビークで何が起きているかと言うと、土地を守っている農民からどんどん土地が奪われている現実がある。土地をめぐる問題について発言したり、問題提起をしたりすると、政府が警察を連れてくる。特に迅速介入隊のような力の強い警察がやって来て、声を上げた農民を連れていく 。このような状況であるにもかかわらず、(前に並んでいる)政府の代表はそれを知っていて、土地が余っていると言うのか。農民との対話と言っているが、本当に対話になっているのか」。このような問題提起をしている 。
(次の映像に写っている)この方が農業省の経済局長(Raimundo Matula)で、首相の代理として派遣されてきた。この会議には終日、首相代理のこの局長と、農業大臣退席の後の代理として別の局長(Mohamed Valá)が最後まで出席していた。この方が言っているのは、「プロサバンナはまだコンセプトの段階である。まだ何も進めていないので、今から対話をしよう」であった。しかし会場からは失笑が漏れた(事業は進んでいるから)。
この方は、モザンビークの最も有名な研究者でモザンビーク農業省の元局長でもあった方(João Moscaエコノミストで大学教授、研究所所長)であるが、モザンビークの現在の農業政策がいかに圧倒的多数の小農のための国家戦略を欠いており、投資偏重のものになっているかということを訴えた。同時に、2002年以来、モザンビークの貧困者数は増えており、これほど投資が入っているのに、なぜ貧困者や貧困度は増しているのか、これを政府はどう説明するのか、ということを問題提起した(注17) 。
この方も農民。この会議に参加したほとんどの人は農民であり、特に北部の農民組織を代表する人々が集まってきた。この方が言うことには、「今政府が説明したことと現地で起きていることには、(別々の)二つのリアリティーがある。いったいどちらが真実なのか。政府はすべて大丈夫、と(イリュージョンを)言うが、農民が生きている現実では日々状況が悪化しており、それ(生活の悪化)に政府・政策が加担している。また、これまで「プロサバンナはブラジルを手本にする、ブラジルで成功したからモザンビークでも大丈夫だ」というニュアンスで政府によって説明され、書かれていたが、もはやそのような説明がされなくなった。かつては盛んに「ブラジルのPRODECER」と言われていたのに、なぜ急に言われなくなったのか。あれだけ「投資をする、大豆を輸出する」と言っていたのに、言われなくなった。小農としてこれは喜ばしいことだが、この急な変化には何があるのか。これはNational Shame(国民的恥)だ。犯罪だ。政府は嘘つきだ」と述べている。この方は、「農民が分かる言葉で、農民のことを、農民に対し、一つの事実を言ってくれ」と要求している。「いったいプロサバンナとは何なのか」と (注18)。
また、会場ではモザンビーク農民組織(UNAC)と市民社会組織(ORAM)がブラジルの「土地なし農民運動(MST)」らと共に作ったビデオ("ProSavana e face oculta do Prodecer"「プロサバンナと顔を隠したPRODECER」)が放映された(注19)。この映像には、ブラジルのセラード開発の結果として農民がいなくなった現実が描かれている。広大なサトウキビと大豆畑が続く様子が映し出され、(家族)農民の姿が一つもなく、農業労働者が何キロメートル当たり一人いるかいないかという現実が示された。会場では「これがモザンビークで行われようとしているのか」との問いかけがなされ、政府は「関係ない」と答えたが、不信感が募っている状態だ。
最後に、この方は全国女性連盟(Forum Mulher)の代表(Graça Sambo)。残念ながら、この会議には日本、ブラジル政府の代表(JICAやABCを含む)も出席しなかった。モザンビークは国会があったにも拘わらず、大臣も首相代理も来たのに。私があの会議の場で是非聞いて頂きたかったのは、農民や女性連盟、市民社会の皆さんがどのような不信感を抱えているかということ。説明がころころと変わる中、未だ政府側の誰からもそのことについての説明がない。では(プロサバンナとは)いったい何なのか。この女性は、(マスタープランの)ドラフトができ次第(政府は)シェアすると言うが、それはいつ来るのか、なぜ決まってから我々を呼ぶのか、と言っていた(注20) 。私からは以上です。
渡辺直子氏(日本国際ボランティアセンター)私からは、先ほど舩田氏から説明があった問題提起のうちの一つ、「土地は余っているのか」ということに関して、土地収奪の現実についてお話しする。今回3州の調査地を回る中で、土地収奪の事例が6つあった。内2ケースについて紹介する(その他のケースは報告書に詳細を掲載予定)。
一つはザンベジア州グルエ郡。HoyoHoyo(ホヨホヨ)という外国企業が入っており、1万ヘクタールという広大な土地の権利を取得し、大豆生産を行なっている。2011年に土地使用権を取得している。二つ目にナンプーラ州メクブリ郡では、Lurio Green(ルリオ・グリーン)というノルウェー企業が入っており、2012年、住民との協議・契約によって870ヘクタールの使用権を獲得し、ユーカリ植林や大豆生産を行なっている。(ルリオ・グリーン社はナンプーラ州全体で124,000ヘクタールの土地使用権を持つ)
両社とも、住民との事前協議は行っていた。そこで約束されたことはほぼ同じであり、学校、病院、工場等を立て、雇用を促進する、というものであった。ザンベジア州においては、地元農民アソシエーションを支援するとのことであったが、いずれの約束も守られていない。ナンプーラ州においては、植林後も同じ土地で主食のメイズやキャッサバは栽培できると言われたために住民は土地を明け渡したが、こちらも守られておらず、雇用も生み出されていない。このような状況が、インタビューから判明した。
では、土地をめぐる問題としてどのようなことが起きているか。ザンベジア州には、もともとポルトガル人が所有していたが内戦中に放棄された土地があり、戦後20年間、この土地を農民が耕作していた。モザンビークには、10年以上土地を利用した者はその土地に対する権利を主張できるという土地法がある。しかし、2009年頃からモザンビーク政府は「土地は政府のもの(だから政府が自由に企業に貸与できる)」と主張し始め、2010年頃から住民が企業によって強制退去させられるようになった。
先ほどの舩田氏の報告にあったように、作物があるにも拘わらず引き抜かれ、ブルドーザーで土地を破壊される、ということが起きた。移転先が約束されたが、沼地で耕作できるような土地ではなかった。伝統的権威(チーフ)が新たな土地を探してきて整備の協力を依頼したが、補償金を支払ったので自分たちでやってくれ、と言われた。しかし、その補償金は適切に支払われたのではなく、10ヘクタール分を1ヘクタールに減少させられる形で支払われている。
一方、ナンプーラ州においては、(企業進出後も)植えてよいとわれていた作物が植えられないという状態にある。また、住民との契約で土地の範囲は840ヘクタールだと言っていたのに、最初に約束した土地を既成事実化し、現在人々が使っている最も肥沃な土地で強制的に植林を開始し、住民は使えなくなった。補償金や代替地はないとのことであった。雇用問題としては、女性(ジェンダー)の問題が生じている点も強調されていた。契約時に男性と女性の仕事内容は違うと約束されていたにも拘わらず、重労働が女性に課され、ノルマを達成しないと給料が支払われない。それに対して不満を言ったら村人全員が解雇され、村の外から労働者が連れて来られる現状が生まれている。
このように土地を失い、人々の生活はどのように変わったか。ザンベジア州においては、かつては一日四回も食べられていた。彼らが言うことには、「お金は畑から生み出されていた」。そのお金によって、子供たちは学校に通い、中学校の寮に入ることもできたし、大学にも行くことができた。今は深刻な飢えと戦っていて、学校に行けなくなった子供や若者はやることがなく食べ物が不十分であるため、盗みを働くようになったという。
ナンプーラ州では、以前は様々な種類の作物を生産し、ストックも十分あった。それを販売することで子供の教育費も出せていたし、一年中十分に食べることができたが、現在は代替地も用意されておらず、かつて使っていた古い土地を使わざるを得ない。そのため生産も上がらない。一日一食で常に空腹だ、このままでは飢えてしまう、と訴えていた。そのような中、肥沃な土地を求めてコミュニティーを離れる人もおり、コミュニティー崩壊の危機ということも口にされている。
こちらは、ルリオ・グリーン社との契約書にあたるもの。同社は契約の範囲を超えて村人が使用している肥沃な土地に植林を開始している。写真の奥のほう、山の向こうまでユーカリが植えられており、最近はアカシアの植林も始まった。
これらの事例から言えることは、住民との軋轢の多くは、土地をめぐる事前協議において企業側が提示した約束が履行されていないことが原因で起きている。住民は土地を手放すのに見合った対価を得られておらず、どうしたらいいか分からないといった状況だ。土地があったとしても不整備で使えない、また契約不履行だけではなく、契約範囲を超えた土地の収奪や政府関係者の協力の下での立ち退き等が強制力を伴う形で起きている。雇用の機会も提供されておらず、土地を失った住民の生活は悪化している。土地収奪は、雇用、食料、コミュニティーの存続といった、住民・農民の生活・生存に欠かせないものに対する脅威になっている。こうして、人々の基本的権利が守られていない現実が明らかになった。投資と小農は本当に共存できるのかが疑わしいことがこの事例から分かる。
土地収奪については、別のコンテクスト(文脈)もある。ザンベジア州のホヨホヨ社は、大豆を植えている。ルリオ・グリーン社も、現在メクブリ郡ではユーカリの植林を行なっているが、(去年から)大豆の生産も始めている。別の場所ではすでに広大な土地で大豆栽培をしている。AgroMozという企業も大豆生産を行なっている。ここでは土地の使用権利取得は2012年からだが、人びとは1ヘクタールあたり約1,500円を補償としてもらっただけで、土地を失っている。この企業(AgroMoz社)が特徴的なのは、プロサバンナの主要関係者であるモザンビーク・ゲブーサ大統領のファミリー企業や、ブラジルの主要大豆生産企業(Pincesso社)が関わっている。また、ポルトガルの財閥や、(プロサバンナのマスタープラン策定事業の)ブラジル側コンサルタント(Fundação de Getulio Vargas,FGV)等、プロサバンナの主要アクターが関わっている。その中で、地元の人々は声を上げられない状況にある。
こちらはルリオ・グリーン社の農地であるが、2012年以降、12万6000ヘクタールもの土地を政府から取得し、生産地を拡大している。
このように今回見てきた事例の全てにおいて、プロサバンナ事業の(合意文書への)調印が為された2009年以降に、(その事業対象地で)大豆の生産が始められており、現在、植林から大豆の生産に転換する事例が加速度的に起きているということが見えてくる。
土地収奪とプロサバンナ事業との関係ということでは、プロサバンナ事業では、住民の自発的でない移動・移住の可能性に触れている。現在、JICAが事業のマスタープランを作っているところだが、そのレポートNo.2の中でも明言されている(注21) 。また、2012年12月に出された、JICAからPDIF(ProSAVANA Development Initiative Fundプロサバンナ開発イニシアティブ基金)に関わるコンサルタントへの業務指示書にも、「優先農業開発事業において、住民移転もしくは用地取得が生じる場合の住民移転計画の作成支援」ということで、その可能性が指摘されている。
これまで見てきたとおり、農村において日常的に人権侵害が、しかもそれが政府関係者によって起きている。モザンビークでは土地法によって、住民・農民の土地に対する権利は守られているにも拘わらず、土地収奪が頻発している。このことから、モザンビーク政府が国民の権利を守れていないということが指摘できる。また、土地は足りているとのことであったが、足りているどころか、奪われている。それも最も生産性の良い土地が奪われている。このことから、投資と小農が共存できていない実態が指摘できる。
このような中、今後事業の中で移転をした住民の権利は守られないであろうことは容易に想像できる。小農の権利を守るためにプロサバンナ事業には何ができるのか。このまま進めると現在起きている問題を悪化させ加速させるだけではないのか。これが我々の調査の結論である。
森下麻衣子氏(オックスファム・ジャパン)オックスファム・ジャパンの森下です。我々の現地調査の目的はいくつかあり、一つ目が舩田氏の報告にあったように、現地市民社会の声を聞くこと、二つ目に渡辺氏が報告された、事業対象地となっているモザンビーク北部での土地をめぐる問題について見聞きすることであった。私からは三つ目、プロサバンナ事業の現場では、具体的に何が事業として進められているのか、いないのか、という点について報告させて頂く。
今年の三月、一つの報告書が流出した(同上注21と同様)。これを我々市民社会側は、プロサバンナ事業のマスタープラン・ドラフトとして受け止め、その内容について懸念を表明し、各種団体が声明を発表するなどした(注22) 。しかしながら、日本政府を始めとする三カ国政府は「この報告書はマスタープラン・ドラフトではない。現時点でマスタープラン・ドラフトは存在しない。現地農民と対話を進めながら、現在作成中である」と説明した。マスタープランが存在するか否かについてこれ以上議論するつもりはない。しかし、報告書にある内容を調査の手掛かりとして現地に入ったところ、報告書通りに一部の事業が進められているといった現実を目の当たりにした。
私からは二点説明させて頂く。プロサバンナ事業がマスタープラン作成途中であるにも拘わらず実際に現地では進められている、と言われる際に挙げられるプロジェクトが二つある。一つは、PDIF(先述基金)と呼ばれるものだ。これは、JICAとモザンビーク政府の融資機関により、2012年9月に初期資金75万米ドルで立ち上げられた基金である。この目的は、ナカラ回廊沿いで事業を行うアグリビジネスをプロサバンナ事業のパイロット事業として支援することであった。その原資はモザンビーク政府に提供された食糧援助(KR)の見返り資金がその7割を占め、残りの3割に関しては、GAPIという機関が出資する性格のものだ。
昨年の夏に第一次募集が行われ、5つのアグリビジネスがその融資対象として選ばれた。これは現地でJICAの委託コンサルタントから聞き取った内容や、融資の報告書をもとに作成した表である。表の2番目のIKURU、Orwela Seed Company社に関しては、二つのアグリビジネスと関係性を持つ農民アソシエーションに話を聞いてきた。四つ目のMatharia Empreendimentosに関しては、実際に事業対象者に話を聞くことはできなかったが、農村で調査をする中で、同社農場周辺で耕作する農民から話を聞くことが出来た。
これら3つの企業の一社と取引する教師である男性の話を聞いた。彼は農場経営者でもあり、(我々が訪問した)40ヘクタールの農地でゴマを生産し、それを同社と取引している。こちらは、IKURU関係者から取り組みやPDIF事業について聞いている様子。IKURUによると、農家の大半は、小規模農家というより中規模農家であり、5~10ヘクタールの農地を耕している(注23)。そのような人々に、融資で購入したトラクターを貸し出し、事業を行っている 。
プロサバンナ事業が実際に動いているのではないか、ということで二つ目に上がってくるのは、クイックインパクトプロジェクト(以下QIP)である。QIPとは何か。JICAのウェブサイトによると、プロサバンナ全体の農業開発計画の中から即効性が期待できるものをQIPとし、これをマスタープラン全体の中でいくつか決めていく、とある。
我々が見ている報告書の中では、少なくとも16のQIP案が提示されており、8つがパブリックセクターによるもの、もう8つがプライベートセクターによるものだ。プライベートセクターによるものに関しては、既に現地で実施されている事業がプロサバンナ事業の性格に見合うものであれば、その事業に融資し、企業投資を奨励している。パブリックなものに関しては、プロサバンナ事業を実施するにあたって必要な政策づくりやインフラ整備など、公が入らなくてはならないもの、という分け方がされているようだ。
16のQIPから一つ紹介する。これはパブリックセクターに分類される、リバウエ郡マタリア地域で行われているプロジェクトだ。このプロジェクトの概要は、土地バンク(銀行)を作るというもの。要は、モザンビークでは土地はすべて国家が所有しているが、10年間同じ土地を使っていれば農民はその土地の利用権を持ち、DUAT取得によって土地登記を行う。しかし農村部では、大半の農民は字が読めないなどの理由でDUATを持っていない。土地バンク構想では農民のDUAT取得を奨励し、土地のデータをデータバンクに入れることにより、外部からの投資環境を整えるということが書かれている。
こちらはリバウエの農村での聞き取り調査の様子。農民アソシエーションが灌漑設備を作り、野菜などを生産している。彼らからいくつが聞き取りを行なった。彼らの証言を紹介したい。ある農民にプロサバンナ事業について知っているかと聞くと、知っていると答えた。今年の1月、イアパラ郡での話し合いに呼ばれた。そこでプロサバンナ事業関係者は、「これは三カ国の協力プロジェクトだ。モザンビークには多くの使われていない土地がある」と言った。この話し合いについては村長に手紙が来ており、村長とフォーラムの代表は出席せよとのことだった。彼らが言うことには、「土地のDUAT登録をしなくてはならない。我々がその手助けをする。モザンビークには使われていない土地があり、それがどこか分かればモザンビーク政府にそこを使用させてもらう」とのことだった。
さらに、今年3月、彼らは土地がどのように使われているか見に来た。モザンビーク、ブラジル、日本から各一人ずつ来ており、7月には実際に農地を測りに来た。
また、プロサバンナから融資を受けた人がいるとのことだ。昨年、10万米ドルほどを受け取っており、白人でマプートに住んでいる。2,850ヘクタールの囲いに囲まれた農地を持っている。ここは内戦中放棄されていた土地であったが、内戦後に戻ってきて、農民を追い出した上で農地を使っている。
プロサバンナから融資を受けたルイ・サントスという人物がどのような経緯で融資を受けるに至ったか尋ねたところ、「プロサバンナは良い土地や大きな土地を持っている人物を探していた。そこで彼を見つけたのだと思う。彼の農地では30人ほどが雇われており、周囲の農民に種と肥料などをセットで貸し出すいわゆる契約栽培をしている。彼の農地で栽培することもあれば、自分たちの農地で栽培することもある」とのことだった。
非常に印象的だったコメントが、我々が調査に来た目的を説明した時のものだ。我々が「プロサバンナは三カ国の協力プロジェクトであり、モザンビークの小農支援、またブラジルや日本にとっても良いものであると聞いているが、実際、どのように物ごとが進んでいるのか、確認しに来た」と説明したところ、「プロサバンナは、ルイのような既にお金持ちの人を探して助けるのではなく、自分たちのようにお金のない小規模農家を支援すべきではないか」とのことだった。
最後にまとめと問題提起をしたい。事業の進め方と内容の二つに分けてお話しする。まず、進め方について。当初、レポート2の位置づけについて、マスタープラン・ドラフトではないとの説明があった。ならば、現在リバウエ郡で進行している、プロサバンナ事業を語って行われている土地バンク。この事業は一体何なのか。このことは農民からの証言だけでなく、リバウエのモザンビーク政府関係者との会話からも確認されており、彼は準備されているプロジェクトの書類を見せてくれた。
二つ目に、QIPとPDIFの関係が非常にあやふやであり、このPDIFとはいったい何なのか、ということで理解に苦しんでいたのであるが、JICAナリッジサイトの案件概要表に明確に書かれていることには、QIP案の一部のパイロット事業としての実施を行う、とのことだった(注24)。つまり、食糧援助見返り資金を活用した媒体基金による契約栽培推進事業とあり、これがPDIFのことなのではないか、ということだ 。
しかし、今朝JICAの方とお話しした時に、「PDIFとQIPは別物である、そのような表記があれば修正する」との発言があった。案件概要表にそのような形で掲載されていれば、そのようなものであると我々は受け取ってしまうし、そもそものロジックとして、マスタープランそのものがなくQIP案が決まってないとはいえ、このパイロットプロジェクトは「QIP案の一部のプロジェクト」とされているので、QIPがまったく存在しないということはありえない。おそらく何らかの案があり、それらのうちのパイロットプロジェクトとしてPDIFがあるという位置づけなのであろう、と理解している。
また、PDIFの二次募集はないと外務省・JICAとのやり取りの中で伺っていたが、現地では6月下旬に説明会があり、7月中旬に募集を締め切った、との話を聞いた。融資先も決定している。なぜ、これほど簡単な事実関係の確認すら困難なのか、という疑問がある。
最後にDUAT取得の進め方について。先ほどDUAT取得に関して、実際にプロサバンナ関係者が来て土地を測りに来たと話したが、この男性は、その後「(DUATを取得した箇所以上に)さらに農地を拡大したい」と話した。「DUATを取得したら決められた土地以外は使えないのではないか」と聞くと、「農地を拡大したら、またDUATを取得すればいいのだ」と言っていた。プロジェクト概要を見る限り、DUAT取得は、投資環境を整えることをもっぱらの目的として、現在行われている移住型農業を定住型にする意図があると書かれているが、こういったことが現地農民に理解されていないのではないか。現地できちんとした情報共有や協議がないままに事業が進行し、農民は誤った認識をするのではないか。
最後に、事業内容から見た問題についてお話しする。論点だけ整理すると、そもそもPDIFで推進されている契約栽培が小規模農家支援と聞いているが、本当にそうなのか。現時点での対象農家は中規模農家(並びに大規模農場を有する企業)と言った方が正しい。また、契約栽培は小規模農家にどれだけメリットがあるのかという点については未だ議論があるところでもあるので、それを支援として行う場合にはより丁寧なアプローチが必要だ。
もう一つ、PDIFで支援しているIKURUの株主が、実はGAPIだった、ということが判明した(*IKURUのCEOもGAPIから派遣)。PDIFの基金自体がGAPIとの共同出資によるものだ(GAPIが同基金を運営)。これに果たして問題ないのか。
また、プロサバンナは現地農民の土地の利用、生活を大きく変えていくプロジェクトであるが、その方向性や生活への変化・影響が現地農民に理解されているのか、という問題もある。土地利用の登記に関してもきちんと説明をせねば、土地収奪が起こっている現地では様々な憶測や不安が出てくる。情報がきちんと提示されないまま進められれば、計画的に土地が奪われていると思われても仕方がない。事業の内容、進め方の両方において、問題点、課題が見つかったというのが報告になる。
秋本陽子氏(ATTACジャパン)ATTACジャパンの秋本です。私の所属団体が海外の小農団体とネットワークを持っており、昨年この問題に取り組んでくれないか、との話があったことをきっかけに、関わるようになった。先ほど舩田氏からJICA・外務省がこの事業を進める目的の説明があったが、私からはモザンビーク北部の小農は本当に生産技術を持っていないのか、水源にアクセスできないのか、様々な努力をしていないのか、ということについて、見てきたことを報告させて頂く。
(ニアサ州マジュネ郡の小農の収穫の映像)
これは(PPT写真)、モザンビーク、ナンプーラ近郊の畑。これを見ると、プロサバンナ事業に関してJICAが説明する「何もない農地」とはまったく違うということがお分かり頂けると考える。ここには、日本の畑を思わせるようなものがあった。私は、ここに苗床があること、畝がきちんと並んでいることにびっくりした。農家の方によれば、農業研修を受けたという。いくつかの作物を作っていた。畝を真っ直ぐにそろえ、きれいに植えるということもやっていた。苗床から少し離れたところにはピーマン、インゲン、葉物野菜など数種類の作物が、青々と立派に育っていた。農家の方によれば、これらを出荷するという。
ここが水源。小さな川(日本で言えば、農業用水路)で、ここから取水してずっと農業をやってきたという。さきほどお見せした作物はこの水で育っている。しかし、最近、工場ができたことによって、水量が少なくなってきた。
このように、モザンビーク北部の小農が努力していないわけではなく、彼らは彼らなりの農業を模索している。。彼らは、「大規模農業ではなく、小農とその家族が暮らしていける、余剰の生産物を市場に売って生活ができる、ということを第一の目標としている」と言う。大規模耕作、ましてや必ずしも契約農業を望んでいるわけではない。外務省・JICAの進めているプロサバンナ事業では、輸出型作物の作付けを奨励している。これは、地元農民が従来つくってきた農業をやめて、つまり、自分の家で食べるための作物栽培をやめて、輸出用作物の生産が奨励されるということ。つまり、グローバル市場に耐えうる農業を奨励するという。これは、世界市場の動向によって、モザンビーク小農の生活も影響を受けることを意味している。自分たちで食べる食べ物を作ってきたのが、危なくなる可能性も出てくる。
2月と、6月のTICADの時、モザンビーク最大の農民組織であるUNACから代表団が来日したが、そのときスポークスパーソンのヴィセント氏は、「自分が大学に行けたのは、両親が小さな農地を持っており、それを耕すことができたから」と語っていた。これは非常に重みのある言葉。今、モザンビークの小農の多くは、大規模な農業を目指すのではなく、家族農業を大切にし、暮らしていける現金収入があれば、と考えている。モザンビーク農民が持続可能な農業を目指して頑張っている姿を、是非、JICA・外務省の方には考えて欲しい。
3. 緊急声明文紹介
津山直子氏(アフリカ日本協議会理事/動く→動かす代表、司会進行)四人の発表者の方、ありがとうございました。ここで、お配りした資料の2ページ目に掲載されている緊急声明について、日本国際ボランティアセンターの高橋氏から説明して頂く(注25)。
高橋清貴氏(日本国際ボランティアセンター)ご紹介いただいた、日本国際ボランティアセンターの高橋です。今回、報告者である四名と共に現地に行ってきた。四名に報告して頂いた調査の結果に基づき、緊急声明を出すに至った。最後に共有させて頂きたい。
我々がこの問題に関わるようになったのは昨年12月。ODA政策協議会というNGOと外務省との定期協議の中で、この問題を扱うようになった(注26)。それ以後、非常に大きく複雑な問題だということでスピンオフし、これまでに五回ほど意見交換会をもってきた(注27)。その中で一貫してJICA・外務省から言われていたのは、「小農支援」ということだった。我々は、これが真実なのであろう、そうあって欲しい、という希望をもって現地調査に行ったのだが、現実にはこれは本当に小農支援か、と疑問に思われることが数多くあった。現地には文字が読めない農民もおり、どれだけ情報が手に入るかも分からない状況の中でプロサバンナは進められている。彼らの気持ちをできる限り代弁する形で今回の声明を作ったので、共有させて頂きたい。
まず、この声明の土台となっている事実を三つほど共有したい。一つは、モザンビークで実際に土地収奪が起こっているということ。二つ目は、政府による抑圧がかなり強い状況があり、自由にものが言えるかも分からないということ。三つ目は、プロサバンナ事業は非常に複雑で多岐に渡っており、農民たちに十分理解されていないということ。説明したと言っても、資料も情報開示もない。この三つの事実は、否定のしようがない。これらの事実に基づき、この事業が小農支援となるためには果たしてどうしたらいいのか。
声明の中に7つの要請項目を挙げた。1、2は総合的なもの。3、4、5が対話の在り方について。6、7がどうすべきか、ということに対する提案である。
1について。現地農民組織であるUNACを中心として市民社会から公開書簡が出されているにも拘わらず、これに対する返事が未だない。まずは、書面にてこれに返答して頂きたい。彼らは中断を求めているが、これに対する明確な答えを含めてご回答願いたい。
2について。現地に行ってみて分かったことは、小農をとりまく収奪の事実や情報不足といった、非常に複雑な状況があるということだ。これら農民の置かれた状況をもとに、現地調査を踏まえて案件を組み立てるといった、フレームワーク全体の抜本的な改革をお願いしたい。
それを進めるにあたり、対話の在り方を考えて頂きたい。これまでにもJICA・外務省は対話を大事にするということを言ってきているが、十分ではない。そこで、対話の在り方に関して三点の改善ポイントを提案したい。
まず、UNACはこの問題に対してかなり批判的な意見を持っており、意見を聞いてもらえるような状況にない。これをきちんと見直して頂きたい。
二つ目に、PDIFについてであるが、これは中規模農家を対象にしており、これが誤解を増幅させている部分がある。この見直しが求められているにも拘わらず、7月に第二次募集が行われるといった状況があり、農民は不信感を募らせている。なぜ住民の声に反して事業を進めてしまったかを含めてご説明頂き、対話とはどうあるべきか、考え直して頂きたい。
三つ目は、十分な情報公開と説明責任。特に、農民に情報が伝わり、理解してもらうにはどうしたらいいか、ということをしっかりとやって頂きたい。何日前には情報を提供する、会議を開催する、といったルール・原則を相手側の市民社会と話し合い、確認し、それに基づいた対話の中でプロサバンナの方向性を決めて頂きたい。
小農支援の在り方に関して二つ提案がある。一つ目は、既にUNACが持続可能な家族農業支援のための国家計画案というものを作っている。これを参考に、小農支援とはどうあるべきか考えて頂きたい。
二つ目は農民の権利の問題。先ほどDUATの話にあったように、移住型から定住型に変更することが一つの方向性として打ち出されているが、この選択は農民自身に託して欲しい。そのために十分な情報を提供し、考える時間をしっかりと与え、その上で彼ら自身にどうすべきか決めさせて頂きたい。それが農民の権利を守った上でのやり方だと思う。
最後に、プロサバンナ事業を急いで進めねばならない絶対的な理由は見当たらない。小農支援であるならば、時間をかけてじっくりやるべきだ。しっかりとした対話と十分な時間をもち、小農支援の在り方について考えて頂きたい。
今回、アフリカ日本協議会、オックスファム・ジャパン、モザンビーク開発を考える市民の会、ATTACジャパン、そして日本国際ボランティアセンターで声明を出させて頂いた。是非こちらを読んで頂き、ご賛同頂ければありがたい。
4. コメント
津山直子氏(アフリカ日本協議会理事/動く→動かす代表、司会進行)次に、二人のコメンテーターからコメント頂く。お二人とも、ODA、人権、企業の投資等について長い間活動され、政府に対してもアドバイスされてきた。松本氏よりよろしくお願いします。
松本悟氏(法政大学准教授/メコン・ウォッチ顧問)1999年から環境社会面での悪影響がないように政府の政策作りに身を投じながら一緒に作ってきた。日本のODA、JICAが人びとの生活を脅かすことがあってはならない。かつてのように抗議で変えるのではなく、政策をつくり、しっかりとした政策での議論により悪いODA事業がなくなることを夢見てきた。こういう事業が出てきてしまうことに辛い思いを抱かざるを得ない。
その経験に基づき、JICAの環境社会配慮ガイドラインの面から3点コメントしたい。
①情報公開について:
JICAには情報公開の政策ができている。環境社会配慮ガイドラインに基づく情報公開がされている。英語の情報によると、プロサバンナのマスタープラン策定プロジェクトについては、「特定プロジェクトを提案しない」と書かれている。「具体的にプロジェクトを特定しないので、どのような影響が出るか分からない(注28)。だから、カテゴリー分類はBにしている。Aは色々な影響があるだろう。Bはマイナーな影響しかないだろうという分類。何故かというと、どんなプロジェクトにするか提案する予定がないから」と書かれている 。
ところが、森下さん(OXFAM Japan)が先程指摘したように(報告で)、JICAの案件概要表が公開されており、それによると「QIPを提案する」と書いてある。つまり、ガイドラインに基づき情報公開されている文章には、「プロジェクトを具体的に提案する予定はないので、だからカテゴリーはBである」と書かれ、一方で英語でも日本語でも書かれている案件概要表には「QIPを提案する」とあり、森下さんの話では実施もするとのことだった。情報公開に基づいて書かれている二つの情報なのに全く異なる情報が書かれている。
先程、午前中の会議で、(JICAが)「そのようなことがあるのであればホームページの方を訂正します」と答えたと聞いて唖然としている。訂正する側のHPというのは、今年の9月4日現在のもの。9月4日は1か月も経っていない。確かに2年前の情報公開が改訂されていないのであれば多少分からないでもないが、丁寧に9月4日現在の情報とHPにアップしている。一か月前のものではない。それを今変えるというと、どういうことが起きるか?
外務省の「開発協力適正会議 」の委員をしている(注29)。高橋さんも同様である。日本のODA のPDCAサイクルを回している。Plan Do Check Actサイクルのこと。ちゃんと計画立てましょう。実行したら、ちゃんとチェックを行い、チェックを活かして次にちゃんと変えていこうというもの。今何をしようとしているかというと、チェック段階でおかしくなったら、(元あった)「プランまで変えます」ということをいっている。とんでもないこと。もしうまくいかなかったら、「計画段階の書き方が間違っているから計画段階の書き換えを変えます」…となると、全てのPDCAサイクルは美しいサイクルとなる。誤りがあったことをチェックして認めるからPDCAサイクルが必要であり、日本政府は自公政権になっても行政事業レビューをしている。したがって、そういう仕組みがある以上、自分たちの立てた計画は透明性が必要であるにもかかわらず、JICAと長く仕事をしてきたが極めて残念と言わざるを得ない。
②カテゴリー分類:
アセスメントの専門用語。何百もある事業を全部ものすごく丁寧に調査するのは、コストパフォーマンスが悪い。これはしっかりやりましょう、というカテゴリー分けを事前になされるのは一定の合理性がある。だからこそ、カテゴリーが重要といえる。大きな問題が起きそうなものはAでしっかりやりましょう。ないものはCでさらりとやりましょう。税金を効率的に使うことができる。したがって、カテゴリーが重要。この事業はカテゴリーB。Bとは何か、住民との対話も「必要に応じて」、情報の公開も「場合によっては」という書き方。JICAや外務省が、恣意的にあるいはJICA・外務省の判断によって、必要性を決めることができる。しかし、カテゴリーAだとやらなければいけない。どういうやり方でやるかはガイドラインにしっかり書かれており、だからアカウンタビリティもあり、透明性があり、私たちもチェックができる。
例えば、QIPについて、JICAの資料の中では、「環境社会配慮項目を議論する(洗い出す)」ことも含まれている。普通はその段階で、立ち退きがある、生計が変わる、農業のやり方が変わるということが予見されれば、住民の生活への影響が多いので、当然カテゴリーはAになる可能性がある。しかし、現在JICAに聞く範囲では、カテゴリーBのままである。
マスタープランは日本の国土面積よりも大きいところで作られるため、ざっくりしたプランを作るということで、最初の段階でプロジェクトを特定できないという可能性は否定できない。しかし、JICAのガイドラインによると、以下のように書かれている(注30)。
「7. マスタープランは、協力事業の初期段階ではプロジェクトが明確でない場合が多いが、その場合でもプロジェクトを想定してカテゴリ分類を行う。その際に、派生的・二次的な影響や累積的影響を考慮に入れる。また、複数の代替案を検討する場合は、それら代替案のなかで最も重大な環境社会影響の可能性を持つ代替案のカテゴリ分類に拠るものとする。調査の進捗に伴いプロジェクトが明確になった以降は、必要に応じてカテゴリ分類を見直すものとする」。
つまり、徐々にプロジェクトがみえてきたら、明らかにJICAのホームページの中で、調査プロジェクトの一環としてやられている以上、ガイドラインにのっとって、カテゴリー分類を見直し、場合によってAにし、適切に住民との協議、情報公開をすべき。外向きのカテゴリーをAにかえ、ガイドラインが定めている適切な手続きが不可欠。そうでなければ、ガイドライン改訂の議論を2年間やった意味がない。
③ゾーニング:
この事業では、ゾーニングという考え方が使われている。ゾーニングは大きな影響を及ぼす。私の専門は、世界銀行の調査研究であるが、世界銀行はゾーニングの問題で被害を受けてきた住民から何度も異議申し立てを受けてきた(注31)。世界銀行の政策違反であると指摘されてきた 。JICAや日本の外務省は、真摯にゾーニングがもっている社会環境面の影響を考えた上で、自らのガイドラインをもう一度チェックし、カテゴリーを見直し、住民との対話を政策に基づいて見直すべき。
若林秀樹氏(アムネスティ・インターナショナル日本事務局長)アムネスティ・インターナショナル日本事務局長の若林です。開発に人権の視点が必要であることは言うまでもない。とりわけ、90年代半ばから今日まで、企業と人権の関係について、様々な制度化が進んできた。国連は「人権の主流化」ということで、全ての活動において人権の視点を強化しなくてはならない、ということを、アナン事務総長以来言っている。その集大成として今何が問題なのかということを、これまでの報告を聞いた上でお話ししたい。
まず、JICAの環境社会配慮ガイドラインの中に、明確に「国際人権規約を始め、国際人権基準を尊重し、特に弱い立場の人に配慮、人権状況の把握、意思決定に反映する」ということが書かれている。これは素晴らしいことだが、ここに書いてあるだけでは意味をなさない。どのような人権に対するリスクがあるのかそれぞれの過程においてしっかりアセスメントし、人々の色々な意見を聞き、反映する、という一連の行為が伴わないと、まったく意味のないガイドラインだと思うので、是非そういったことをして頂きたい。その中で二点ほどお話ししたい。一つは、土地収奪、強制立ち退きの問題。もう一つは、ビジネスと人権に関する指導原則についてである。
①強制立ち退きの問題:
とりわけ、強制立ち退きの問題は開発に伴い、非常に大きな問題になっている。国連もこの問題に対して注視していくということである。現在の国際規約上では、社会権規約の第11条、住居の移転に当たるが(注32)、ここには土地も含まれ、国際条約上の違反の可能性がある。
もう一つ「開発に基づく立ち退き及び移動に関する基本原則及びガイドライン」というものがあり、実行すべき全ての手続きについて書かれている(注33)。そこには、公共の利益という口実の下に計画されたことも含まれている。つまり、インフラ関係や大規模事業も当然、このガイドラインに沿ってやらなくてはならない。公共の利益のためであるからいいのだ、ということにならないために、このガイドラインができている。
また、立ち退きの前においては、影響受ける人に関与させる、ということが書かれている。「関与」という言葉はかなり強いもので、単なる「説明」だけではなく、しっかり意見を取り込まなくてはならない、ということがガイドラインに載っている。これら一連の手続きに沿ってやっていくことをお勧めしたい。
②ビジネスと人権に関する指導原則:
二点目が、ビジネスと人権に関する指導原則についてだ。2011年、素晴らしい文書が国連で採択された(注34)。これを見て頂くと、国が果たすべき責任(保護しなくてはならないということ)、そして、企業はその人権基準を尊重しなくてはならない、という様々な原則が書かれている。これには、世界人権宣言以来の様々な人権条約、企業活動における国の役割と企業の責任が全て凝縮されているので、是非見て頂きたい。その中で、国家は当然のことながら、企業を含む第三者による人権侵害から保護しなくてはならない。そのために実効的な政策、立法、規制、裁定を通じてそれらの侵害を防止し、操作、処罰し、そして補償するための適切な処置を取る必要がある、というのが第一原則だ。
もう一つ、企業が国外で活動する場合の人権侵害についてもきちんと措置をせよ、と書かれている。今、それぞれの委員会からの勧告、また、この指導原則においては、企業に対して投資をする場合にどのような人権侵害の可能性があるか、ということについて、その予防的措置、あるいは追加的措置をせよ、ということが求められている。
その中でもう一つ、法律の遵法というものがある。モザンビークの法律や慣習法を守るということは大事であるが、それだけでいいということではない。現在の国際人権基準においては、仮にモザンビークの法律が国際人権基準において劣るようであれば、そこまで引き上げてやらなくてはならない。このことを、日本を含めた世界の企業も、日本国政府も、見ていなくてはならない。これが、現在の国際人権基準の流れであるので、遵法でコンプライアンスをやっています、といっても、それが国際人権基準に満たないのであれば、そこをしっかりやらなくてはならないということを、日本政府の方は見て頂きたい。
原籍国責任というものがあるので、日本国政府はそういった義務を負っている。モザンビーク政府がやること、と逃げないで頂きたい。こういったことが国際人権基準に盛り込まれているので、是非そのことをご理解頂きたい。
いずれにせよ、「開発」とは何のためにあるのか、という根本を考えれば、人間が人間らしい生活を送るための開発であると言える。我々の団体の言葉に置き換えれば、人権が守られる社会の実現である。援助を供与することによって人権が守られる、生活を豊かにする、というような、関係者がお互いにウィンウィンになる関係を築くべく知恵を絞って進めていく時の基準として、国際人権基準に則って事業を進めて頂きたい。
5. 質疑応答
津山直子氏(アフリカ日本協議会理事/動く→動かす代表、司会進行)お二人ともありがとうございました。非常に重要なポイントについてご説明頂けたと思う。
中身の濃い報告、コメントを頂けたと思うので、ここで質問を受け付けたい。質問のある方は手を上げて、所属・名前・要点を簡潔に述べ、誰に対する質問かをおっしゃって頂くよう、ご協力願いたい。
会場会員の栗林です。大豆の生産が計画されているとのことだが、遺伝子組み換えの大豆も導入される予定なのか。また、福島議員から農薬についてのお話があったが、大規模生産になると農薬が大量に使われ、遺伝子組み換えとセットで導入されるという例があるが、そのようなことも計画されているのか。また、モンサントといった企業もこの計画に何らかの関わりをもっているのか。
会場明治学院大学国際学部二年の学生です。松本氏に質問。カテゴリー分類のお話で、プロサバンナ事業は現在カテゴリーBとされており、必要に応じて調べていくというスタンスをとっているとのことであった。プロサバンナ事業全体の話を聞いていて、Aにした方がいいのではないかと思うのだが、実際に今までの事例の中でカテゴリー分類がCからB、BからAになった事例があるのか。また、カテゴリーAに分類されたプロジェクトは、計画が円滑に進んでいるのか。
会場ヒューマンライツウォッチの三浦です。調査に行かれた方達にお聞きしたい。一週間で約何人にインタビューされたのか。個人に対するものと集団に対するもの、それぞれ何人ほどの参加者がいたか教えて頂きたい。
津山直子氏(アフリカ日本協議会理事/動く→動かす代表、司会進行)ありがとうございます。まず、松本氏から二つ目の質問に答えて頂く。
松本悟氏(法政大学准教授/メコン・ウォッチ顧問)カテゴリー変更の例はあり、JICAも実施している。ただし、外側からのプレッシャーによる変更については記憶がない。AからBに変更したケースもあった。
二つ目の質問、カテゴリーAの事業であればしっかり行われているか、についてであるが、私は、政策というものはウォッチする人がいて初めて機能すると考えている。従って、政策が自動的にすべてを解決できるとは思っていない。Aの事業でウォッチしている人がいるものに関しては、相当程度ガイドラインに従って様々な問題提起ができていることが事実だ。よって、モニターをしている人がいれば、JICAのもつ政策の中でこれをやるべきだ、という議論がしやすいことは事実だ。
舩田クラーセンさやか氏(東京外国語大学/モザンビーク開発を考える市民の会)一つ目の質問にお答えする。時間の関係で映像を紹介できないが、ここでインタビューにこたえている現地環境団体(Justiça Ambiental) のモザンビーク人女性は、(プロサバンナについて)最も危惧しているのは、栗林さんもおっしゃったように、大豆の導入であると答えていた。
我々がプロサバンナに関わり始めたのは、去年の12月であるが、現地市民社会や農民組織はその一年前より動き始めていた。その理由は、ブラジル人達がアグリビジネス、特に大豆をモザンビークに大量に持ち込むのではないか、土地を目指してやって来るのではないか、その際に遺伝子組み換えの大豆を持ってくるのではないか、という危惧があったからだ。ブラジルとモザンビークの市民社会は一年も前からプロサバンナに関して調査してきた。お見せしたDVDはその結果だ。彼らが一番心配していたのは、まさに大豆の問題。現在のモザンビークの法制度上、遺伝子組み換えは禁止されているが、既に試験栽培を許可してしまっているという。現地市民社会は、この背景にブラジルの進出があると見ている(注35)。
このプロセスは、まさにブラジルで起きたことと同じであり、禁止されていたにも拘わらず、なし崩し的に現在の大豆生産の7割が遺伝子組み換えになってしまっている。これに関して、ブラジルの市民社会連合が報告書をまとめた。この報告書を回覧する。彼らはなぜこのような報告書を作る決意をしたのか。まさに自分の国で起き、後戻りできないところまで来てしまったことが今アフリカに輸出されつつある。プロサバンナという事業がモザンビークで始まってしまったということに危機感を持ち、ブラジルで起こったことを伝えたい、という思いで作ったのだ。この団体はプロサバンナに関する報告書も作り、ウェブ等に挙げている(注36)。
モンサント等は既に入っているのか、ということであるが、このことに関しては、現在国際機関がリサーチしている。プロサバンナ事業の中心地であるナンプーラ市にアグリビジネスが相当集まってきている。先ほどご紹介したルリオ・グリーン社は、12万6000ヘクタールという非常に広大な土地の権利を取得した会社であるが、大豆生産を開始し、現地に集まりつつある世界の大豆ビジネスの人々と議論しながら行っている。ナンプーラ市では、米国援助機関であるUSAIDと大豆生産を奨励している米国NGO、アグリビジネスが同じ建物の中で活動している。もう止まらないようなところまで来ている。
プロサバンナを日本だけの文脈で考えることはもはやできない。日本がモザンビークにブラジルを連れてきてしまった。アフリカへのアグリビジネスの進出をもたらしてしまった、という側面について、世界、ブラジル、モザンビークの市民社会が非常に危惧しているということを、日本の人々に知って頂きたい。
渡辺直子氏(日本国際ボランティアセンター)私からは、現地でどれくらいの人々にインタビューしたのか、という質問に対してお答えする(調査期間の訂正については前述)。まず、三カ国の市民社会会議には、約150人の人々が参加している。モザンビーク最大の全国農民連盟のメンバー、女性の権利を守る活動をされている方(国内の女性・ジェンダー分野で活動する89の団体を束ねる女性フォーラムの代表やスタッフら)、NGOなどが参加し、農村部における人権侵害等の話があった。
9日からのナンプーラ、プロサバンナ事業対象地への訪問では、現地農民組織UNAC、ナンプーラ市民社会プラットフォームに所属するNGOと共に現場を回った。訪問した6ヶ所においては10から15名程度の農民アソシエーションや政府関係者等と話す機会をもった(注37)。
ナンプーラ州・州都周辺では、IKURUといった関連機関や土地登録を進める現地コンサルの方などにお話しを伺った。現在作成中の報告書に、誰にどのようなインタビューをしたか、ということも掲載するので、是非ご覧頂きたい。完成したら、各団体ホームページにアップしていく予定だ。
津山直子氏(アフリカ日本協議会理事/動く→動かす代表、司会進行)今、現地調査報告書について説明があったが、配布資料に目次のみ掲載している。本日に合わせて完成させる予定であったが、プロサバンナ事業は非常に複雑で様々な背景があり、それらも含めてまとめなくては全体像をつかんで頂けないのでは、と考え、10月下旬を目途にまとめている。完成次第アップしていく予定だ。
若林秀樹氏(アムネスティ・インターナショナル日本事務局長)先ほどのコメントの中に違うニュアンスで伝わってしまったかもしれない箇所があると思ったので、補足させて頂く。強制立ち退きは基本的には例外的な措置だ。それでもやらざるを得ない時は、国際法等、様々な手続きに基づき丁寧に行うという意味だ。また、強制立ち退きには、住居や水、健康、教育へのアクセスといった様々な人権侵害が含まれている。よって、非常に制限的にならざるを得ないということが国際人権法の中にある。
津山直子氏(アフリカ日本協議会理事/動く→動かす代表、司会進行)長時間ありがとうございました。最後にお知らせがある。配布資料の中のチラシにあるが、明治学院大学国際平和研究所と共同で「食べ物の危機を考える」という連続公開セミナーを行なっている。10月18日には「生物多様性保全と農業開発―種子を通して考える」ということで龍谷大学の西川先生、25日には「アフリカにおける土地法の現状」ということで吉田先生からお話を頂き、議論する。是非ご参加ください。
プロサバンナ事業についてたくさんの人と考え、モザンビークの人々と共に、より良い農村、人々の生活を実現するために活動していきたいので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。
【注一覧】
(注1) 詳細は食糧増産援助を問うネットワーク(2KR-net)
http://www.paw.hi-ho.ne.jp/kr2-net/(注2)朝日新聞 「(アフリカはいま)眠れる大地、「緑の実験」 モザンビーク穀倉化計画―貧しい農民、強制移転懸念」(2013年5月29日)
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201305280673.html(注3)“Minutes of Meetin”"(Sept.17, 2009)。ProSAVANA-PDレポートno.2の巻末に掲載。同レポートは国際NGO・GRAINのサイトに共同声明と共に掲載(
http://www.grain.org/e/4703)。
(注4) JICA「日本とブラジルがモザンビークで農業開発協力ーーブラジル・セラード開発の知見を生かして」 2009年9月28日(
http://www.jica.go.jp/topics/2009/20090928_01.html)。
(注5)JICA “Agricultural Development of the Tropical Savannah in Mozambique”
http://www.jica.go.jp/english/our_work/thematic_issues/south/project07.html(注6)公開書簡の和訳全文(
http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-27.html)。これに関する国内外の報道一覧はこちら。
http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-28.html(注7)同合同ミッションについてのJICA記事(
http://www.jica.go.jp/topics/news/2012/20120514_02.html)。
(注8)JICA乾英二アフリカ部長による帰国報告(2012年6月4日パワーポイント)より。
(注9) 同会議の動画(
http://www.youtube.com/channel/UCoZCgmP4w-1Ttbw65YqRtGQ?feature=watch)。
(注10)PPOSC-Nは、プロサバンナ事業の拠点あり、対象19郡のうち10郡までがあるナンプーラ州内の200を超える市民社会組織のプラットフォームであるが、「プロサバンナ事業の一時停止を求める公開書簡」を起草した他、9月30日には「プロサバンナ事業の対話の進め方に関する批判声明をリリースした。
http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-45.html【日本語訳】
(注11)1987年設立。モザンビーク最大の農民組織で、プロサバンナ対象地を含む国内2200農民組織86,000農民を束ねる。プロサバンナ事業に対し最初に問題提起を行った。「プロサバンナに関する声明」(2012年10月11日)
http://farmlandgrab.org/post/view/21204【日本語訳】
(注12)2013年2月27日参議院議員会館「アフリカの課題に応えるTICAD V(アフリカ開発会議)の実現に向けて~食料安全保障問題と『農業投資』が引き起こす¬土地紛争」
http://www.youtube.com/watch?v=Ywdyqa6SqmQ 2013年2月28日東京大学「モザンビーク北部における農業と食料安全保障~モザンビーク農民組織代表をお招きして¬」
http://www.youtube.com/watch?v=CE0McUHu6Rg(前半)
http://www.youtube.com/watch?v=RRHA6q4ZuFw(後半)。
(注13)2013年5月29日国際シンポジウムのパワーポイント
http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-34.html(注14)BS朝日「いま世界はーTICAD~アフリカ開発会議」(2013年6月2日)、TBS「報道特集―日本が進めるアフリカ開発計画の明と暗 日本の食料大増産計画にアフリカ農民が訴える不安」(2013年6月8日)
(注15)土地を巡る地域住民と投資・政府との対立、政府の抑圧については次の動画を参照されたい。Peter Steudtner (2012) “Stop Look Listen” (Justica Ambiental & Friends of the Earth Mozambique)
http://panphotos.org/PAN/blog/2013/04/stop-look-listen-3-short-films-on-forced-resettlement-in-northern-mozambique/ Geoff Arbourne (2013) “Seeds of Discontent” (Transnational Institute/FIAN International)
http://farmlandgrab.org/post/view/22644-seeds-of-discontent#sthash.bXJ0mbtf.dpuf (注16)この女性の発言の様子は次の動画の10分頃。
http://www.youtube.com/watch?v=8kXyY62TQ_0(注17)この様子は次の動画。15分頃。
http://www.youtube.com/watch?v=8kXyY62TQ_0(注18)この様子は次の動画。20分頃。
http://www.youtube.com/watch?v=8kXyY62TQ_0(注19)この動画は次のサイトで公開中。
http://farmlandgrab.org/post/view/22661(注20)この様子は次の動画。24分頃。
http://www.youtube.com/watch?v=8kXyY62TQ_0(注21) これらのレポートは次に掲載。
http://www.grain.org/e/4703 同レポートの分析に基づくモザンビーク・国際NGOによる共同声明(2013年4月29日)「「共同声明:モザンビーク北部のProSAVANA事業マスタープラン(案)は最悪の計画を露呈した~市民社会組織は大規模土地収奪に道を開く秘密計画に警告を発する~」
http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-21.html 【日本語訳】「日本の専門家分析と問題提起」
http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-24.html(注22)注21の「共同声明」「専門家分析」等。
(注23) ProSAVANA-PDでは、「暫定」として、小は0-10ha(未満)、中は10-50ha(未満)、大は50ha以上と定義。ただ現地にいるJICAコンサルの方の感覚でも、現地の農民支援団体等の感覚でも、小規模農家:0-5ha(未満)、中規模農家:5-30ha(未満)、大規模農家:30ha-とのことである。
(注24)Quick Impact Project案の一部のパイロット事業(KR見返り資金を活用した触媒基金による契約栽培推進事業)としての実施」(JICAナレッジサイト案件概要表<2013年9月4日>掲載より)
http://gwweb.jica.go.jp/km/ProjectView.nsf/VIEWParentSearch/CBD5ADD7676429714925794C0079D830?OpenDocument&pv=VW02040104(注25)緊急声明全文(
http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-44.html)。
(注26)NGO・外務省定期協議会 ODA 政策協議会 2012年12月14日議事録(
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/oda_seikyo_12_2.html)。
(注27) 第1回(2013年1月25日)、第2回(3月15日)、第3回(4月19日)、第4回(5月9日)、第5回(7月12日)議事要旨は次の外務省サイト。最後の数字を開催回の数字に変更すれば各回の議事要旨が入手可能。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/prosavana/prosavana_01.html(注28)カテゴリーのスクリーニング結果概要は、以下に掲載。
http://www.jica.go.jp/english/our_work/social_environmental/id/africa/mozambique_b04.html(注29) ODA適正会議についての外務省ホームページ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/kaikaku/tekisei_k/index.html(注30)国際協力機構「環境社会配慮ガイドライン」2010年4月, 4頁。2-2カテゴリー分類より。
http://www.jica.go.jp/environment/guideline/pdf/guideline01.pdf (注31)ゾーニングに対する異議申立の一例に“Democratic Republic of Congo: Transitional Support for Economic Recovery Credit Operation (TSERO) and Emergency Economic and Social Reunification
Support Project (EESRSP)”がある。世銀のインスペクションパネルは、森林のゾーニングは土地利用計画なのでカテゴリAに分類すべきだったと政策の不遵守を指摘している。
(注32)世界人権宣言社会権規約は1966年に採択された。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/pdfs/kiyaku.pdf(注33)日本語訳と解説が墓田桂氏によって”Review of Asian and Pacific Studies No.37”誌上で公開中(
http://www.ohchr.org/Documents/Issues/Housing/HIC_Handbook_Japanese.pdf)。
(注34)詳細は国際連合広報センターのサイトで紹介(
http://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/)。
(注35)同団体のスタッフがこの問題をUNACと共に訴えるため、2013年2月下旬に来日している。環境の観点からProSAVANAに関する声明を2度発表。2013年1月「プロサバンナについてのJA!とFriends of the Earth Mozambiqueのポジション」
http://afriqclass.exblog.jp/17210917/【日本語訳】もう一つの声明は先述4月29日の「共同声明」。
(注36)FASEによる次の報告書。Sergio Schlesinger (2013a) “ ois casos sérios em Mato Grosso. A soja em Lucas do Rio Verde e a cana-de-a úcar em Barra do Burges”, FORMA , 44p; (2013b) “ ois casos sérios em Mato Grosso. A soja em Lucas do Rio Verde e a cana-de-a úcar em Barra do Burges”, FORMA , 100p.
http://issuu.com/ongfase/docs/livro_completo_soja_cana_acucar_fas; (2013c) “Cooperação e investimento do Brasil na África - O caso do ProSavana em Mo ambique”, FASE, 60p.
http://issuu.com/ongfase/docs/caderno_prosavana_fase?e=2143384/4368368(注37)補足として、ザンベジア州グルエ郡レベルでの個別インタビュー:200を超える農民組織(フェデレーション)の選挙で選ばれた代表;行政ポストレベルでの個別インタビュー:50近くの農民組織の選挙で選ばれた代表;ロカリティレベルでの集団インタビュー:33農民組織(1429農民)の代表12名(男性6名女性6名);個別農民へのインタビュー:1農家(夫妻)。
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