<声明>
日本政府とJBICは、有害で、人びとを苦しめる
天然ガス開発への巨額公的融資を止めて下さい
2020年7月16日、政府系金融機関の国際協力銀行(JBIC)は、三井物産株式会社(三井物産)及び独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などがモザンビーク北部カーボデルガード州沖で進める液化天然ガス(LNG)開発に、1.5兆円(144億ドル)の協調融資をすると発表しました 。JBICはこのうち3200億円(約30億ドル)を融資し、残りをアフリカ開発銀行ほか日本の三大民間銀行(三菱UFJ、みずほ、三井住友銀行)などが融資するといいます。民間金融機関の融資の一部には、貸し倒れリスクをカバーするため、日本貿易保険(NEXI)の保険が付されます 。
しかしながら、この天然ガス開発については、地元と世界から中止を求める声があがっており、6月4日付でモザンビークNGO(Justica Ambiental/JA!(Friends of the Earth Mozambique)などにより発表された反対声明には、モザンビークの環境団体をはじめとする20の団体、14の国際団体、19の地域団体、151の各国団体、そして206人の個人が署名しました 。この国際声明は次のように始まります。
「カーボデルガードは痛ましいほどに破壊されている。誰がこれをもたらしたかは明らかである。天然ガス産業がこの破滅を生み出している。天然ガスの採掘が始まってもいないのに、地域のコミュニティは、土地を奪われ、飢えている」
私たち、日本の市民団体・NGOは、現地の人びとの声を受け、また以下に述べる天然ガス開発地で実際に起きている事態を踏まえ、この度の融資決定に強い反対の意を表明いたします。
地元と世界からの中止を求める声
〜土地収奪、貧困と飢餓、汚職、人権侵害、武力紛争、環境破壊
上記の国際声明は、カーボデルガード州が「破壊されている」実態として、天然ガス開発により現地で生じている次の5点の被害・問題を指摘した上で、開発に関わる多国籍企業、天然ガスの購入者、投資家に対し、同開発に関わるすべての活動の即時停止を求めています。
(1)土地や生計手段の強奪:天然ガス開発によって、人びとの生業の糧である農地や海へのアクセスが奪われた。液化プラント建設地では、漁民・農民550世帯が土地と家を奪われている。
(2)貧富の格差拡大:資源産業への国際投資は地域社会を富ませるどころか貧富の格差を広げている(モザンビークの人間開発指標HDIは189カ国中180位)。
(3)ガバナンスの悪化:天然ガス開発を批判した地域リーダーや、この地で取材を行っていたジャーナリストが行方不明になったままである。また、身柄を拘束された者も多数いる 。
(4)武力紛争の勃発と抑圧:天然ガス開発地では、イスラム系武装グループによる攻撃が常態化し、十万を超える避難民が生じている。この武装グループには、生計手段を奪われ、富める国家エリートを目の当たりにした地元若者が参加し、天然ガス開発施設も攻撃の対象となっている。これに対して、モザンビーク政府が、天然ガス開発地防衛を前提とする地域の軍事化を進めた結果、軍や警察関係者による住民への攻撃や弾圧が続いている。
(5)環境悪化と気候変動:天然ガス開発地に隣接するキリンバス諸島は、ユネスコの生物保護圏に指定されているにもかかわらず、ガス開発によって脅威にさらされている。また、開発に関わる各企業は、天然ガスは環境に優しいとの「グリーンウォッシュ」を行っているが、天然ガス開発は、実際は脱炭素化を後退させるものである 。
天然ガス開発地での自称「イスラム国」勢力の台頭と泥沼の戦闘
(4)にあるとおり、天然ガス開発が進められるカーボデルガード州において、イスラム系武装グループによる武力攻撃が3年続き、犠牲者は1300名以上にのぼっています 。特に、本年4月からの攻撃激化は深刻で、泥沼の戦闘が繰り広げられています 。これを受けた国連人道問題調整事務所(UNOCHA)は、6月4日、武力攻撃が「規模においても範囲においても拡大」し、220万人の州人口のうち、211,485人近くの国内避難民が生じていると懸念を表明しました 。
この武装グループは、この地域に「シャリーア法に基づくイスラム国を樹立する」と宣言し、天然ガス開発施設に加え、州の全郡のうち半分を占める6郡の行政府・警察・軍施設を攻撃・占領し、これらに「イスラム国」の旗が立てられました 。また、7月3日には、「イスラム国」が、天然ガス開発に投資する外国企業を攻撃の対象にすると発表したと報じられました 。この戦闘の拡大と泥沼化を受けて、モザンビーク政府は、当初はロシア、現在は南アフリカの民間軍事会社と契約し、戦闘行為に参加させているほか、5月には南部アフリカ開発共同体(SADC)の協力 と南アフリカへの軍事協力を要請する 事態となっています。
状況が悪化し、反対の声があがる中、泥沼化する戦闘地への融資決定
天然ガス開発地における以上の状況を受けて、日本のNGOは、昨年来、財務省・NGO定期協議の場で、JBICに対して問題提起し、事業への融資断念を要請してきました 。本年1月28日には、上記の国際声明を起草したモザンビーク環境団体JA!の関係者と共に、JBICを訪問し、現地の反対の声と治安状況の悪化、人権侵害・環境破壊の実態、ならびに天然ガス開発による気候変動への悪影響等について説明し、融資断念を強く求めました 。
さらに、6月19日の第72回財務省NGO定期協議会では、上記の国際声明を提出し、財務省とJBICに、天然ガス開発に対する現地からの指摘と反対を求める声を届けました。その上で、再度JBICに融資断念を要請するとともに、現地における状況認識を確認しました。それに対してJBICの担当者は、「(天然ガス開発)プロジェクトの所在するカーボデルガード州では、散発的な襲撃事件があることは、認識して」いるとともに、「現地の人々の治安確保の問題についても、住民の安全確保に関しての重要性は認識して」いるとの確認を得ました。そして、「当然、プロジェクトの関係者のみならず、その周辺の地域住民に係るセキュリティ対策も含め」て、融資の適切性を確認する必要がある旨回答がなされました 。
しかし、その具体的な対策は述べられないまま、その2週間後の7月3日、JBICが天然ガス開発への「協調融資を実施する方針を固めた」との報道がなされ、日本の市民として衝撃を受けました。
天然ガス開発における主要推進者としての日本の官民
3年前の攻撃開始当初から、武装グループの正体については様々な分析がなされてきましたが、現地における武装グループの台頭と情勢悪化の背景としては、新規天然ガス開発による格差拡大、人権侵害、環境破壊など、この開発事業により現地で引き起こされた様々な社会問題があることが、専門家やジャーナリスト、現地市民社会組織により、一貫して指摘されてきました 。
三井物産とJOGMECは、この天然ガス油田(エリア1鉱区)の権益20%を獲得した2008年来、ガス田の発見から探鉱、液化プラント建設に至る一連の開発の主要推進者になってきました 。当時、最大の推進者だった米国石油メジャーANADARKO社がその後権益を手放し、その持ち主が次々と代わってきたこともあり 、国際声明で「天然ガスの採掘が始まってもいないのに」生じているとされる上記の問題・被害において、日本の民間企業と公的機関の責任は大変重いものです。
すなわち、日本の官民がリードする天然ガス開発によって、国際紛争の戦場が生み出され、住民の被害が拡大していると言えます。それにもかかわらず、公的機関であるJBICによる融資決定は、まさに、状況が深刻なまでに悪化するなかで行われました。
日本政府、日本企業への要請
以上を受けて、私たち日本の市民団体・NGOは、この度、あらためて、現地の人びとの命・暮らしにすでに害を及ぼし、気候変動への取り組みを後退させる天然ガス開発への日本の官民の関与の即時中止を要請いたします。また、武力紛争が勃発し、開発地が主要ターゲットとなっている最中に進められている、日本国民・住民の貴重な財源である公金を使った融資および保険引き受けに断固として反対します。
2020年7月22日
特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター
特定非営利活動法人 アフリカ日本協議会
国際NGO FOE Japan
モザンビーク開発を考える市民の会
No! to Land Grab, Japan
ATTAC Japan国際ネットワーク委員会
カトリック聖コロンバン会
熱帯林行動ネットワーク
公益社団法人 全国愛農会
特定非営利活動法人APLA
ムラ・マチネット
特定非営利活動法人WE21ジャパン
Fair Finance Guide Japan
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