昨日、以下の抗議と要請文を、JICAと外務省に提出しました。
詳細は、以下書状をお読み下さい。
なお、当日は、このような形で撮影がなされました。


JICA アフリカ部・農村開発部担当理事 萱島伸子様
JICA コンプライアンス担当理事 天野雄介様
JICA 広報担当理事 本清耕造様
cc. JICA農村開発部部長 牧野耕司様、JICAアフリカ部部長 加藤隆一様
件名:国会議員主催勉強会におけるJICAによるビデオ撮影に関する抗議と要請
拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
2019年12月23日のプロサバンナ事業に関する国会議員主催勉強会に協力し、出席した市民団体として、以下について、正式に抗議するとともに、次の三点の要請を行います。
1. 市民への「威嚇行為」(内容については下記[背景](8)で言及)に抗議し、同様の行為や類似の人権侵害を繰り返さないことを求める
2. 昨年12月23日に撮影したビデオの使途を文書であきらかにする
3. 上記のビデオ動画をモザンビーク政府に渡さないことを確約することを求める
【背景】
(1) 2019年12月23日、9名の国会議員が、参議院議員会館で、JICAが事業主となっているプロサバンナ事業に関する勉強会を開催した。本勉強会開催の目的は、JICAの公式サイトに掲載された¹ 、事業対象地最大の小農運動のリーダーを特定し、名指し誹謗する文章に関して、JICAの説明を求めることであった。本勉強会への参加者は、主催した国会議員をはじめ、JICAと外務省であり、さらに、この件について問題提起し、9月24日以来「公開討論会」をJICAに要請していた市民団体も招かれていた² 。
(2) 開催数日前、JICA農村開発部は、突然、主催議員事務所に、本勉強会に
モザンビーク大使を同伴したい旨、ならびに同大使がビデオカメラを持ち込み、撮影を希望しているとの連絡を行ったが、開催議員は不承諾を伝えた。
(3) 過去には(2016年11月)、JICAは、主催者や議員の合意がないにもかかわらず、5つの市民団体が主催し、国会議員らが呼びかけ人となった院内集会に、モザンビーク農業省元副大臣・事務次官を出席させるため、これら高官を緊急招聘している 。国会議員らがこれを断ったにもかかわらず、JICAは当日まで、
駐日モザンビーク大使を含むこれらモザンビーク政府高官の院内集会への参加受け入れを強要し続けた ⁴。これについては、5団体から度重なる抗議と要請がJICAに正式に行われている ⁵。
(4) なお、駐日モザンビーク大使は、2017年8月にモザンビークの首都(マプート)で開催された
TICAD閣僚会議の公式参加者として外務省に登録されていた日本のNGO(日本国際ボランティアセンター)スタッフ・渡辺直子氏の
ビザを不発給とした⁶ 。その後の度重なる要請にもかかわらず、現在まで不発給状態を続けているばかりか、事実関係を都合良く変容させるとともに、同氏に対して弾圧とも受け止められる要求を強めている⁷ 。
(5) JICAも承知のとおり、渡辺氏はJICA掲載文で名指し誹謗されている小農運動リーダーとともに、プロサバンナ事業に関する実証調査を毎年積み重ねてきていた。その渡辺氏が登壇する勉強会に、JICAは、わざわざモザンビーク大使を同伴しようとしたのである。
(6) なお、昨年10月には、モザンビーク市民社会リーダーであり、その2週間後の総選挙への監視活動の要となっていたアナスタシオ・マタヴェル氏が、
現職警察官4名に暗殺され、その上司らが組織犯罪への関与の疑いで勾留されていることが、モザンビーク警察長官によって発表されている⁸ 。なお、
マタヴェル氏は、日本の市民社会とも一緒に活動し、プロサバンナ事業への反対声明に二度にわたって署名していた。(7) JICAの要求(モザンビーク大使の同伴、大使館のビデオ持参)は、12月23日の勉強会に参加した日本の市民団体関係者らに強い不安を引き起した。
(8) 勉強会が開始すると、
JICA広報室報道課の渡辺大介参与役は、発言する市民団体関係者にカメラを向け続けた。勉強会の最後に、市民団体関係者から、説明責任を有する側がカメラを向けることについての不安と疑義が示された⁹ 。
(9) 市民団体側の登壇者は皆、JICAのこのビデオ撮影に、強い不快感と疑問を感じ、威嚇行為と受け止めた。とりわけ、プロサバンナ事業の問題に関わってきた市民団体の間で、この動画の使途について強い懸念が生じている。
(10) JICAが撮影した動画の使途については、
これが内部資料にとどまるものか、またどのような目的でどのように利用するのか明らかでない。
(11) なお、この他にも、過去において、プロサバンナ事業をめぐっては、この事業の問題に取り組んできた日本の市民団体関係者に対する外務省による人権侵害が発覚している。日本の市民団体は、モザンビーク小農運動や市民社会の要請を受けて、NGO外務省定期協議会ODA政策協議会の一環として、2013年1月より、外務省とJICAとの対話を積み重ねていた。しかし、2015年10月に開催された第13回意見交換会時に、外務省守衛室が市民団体関係者の顔写真と名前を掲載した文書を保持していることが発覚した¹⁰ 。この一覧には、当日参加していない者の写真などの情報が含まれており、
外務省が無断で個人情報を収集していたことが明らかになった。この件については、署名団体以外にも、上記政策協議会コーディネイターからも抗議がなされ、外務省は謝罪し、書類の破棄を行っている。
【要請の根拠】
(1) この件に関する重要な前提として、昭和44年12月最高裁大法廷は、国家権力を行使し得る政府組織による市民に対する撮影は人権侵害である(憲法13条の趣旨に反している)と判示し¹¹ 、確定している点があげられる¹² 。なお、公益目的の報道機関による撮影、一般市民による撮影は別のものとして扱われている。
【該当判旨抜粋】
憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。
これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。(2) JICAは公的機関として位置づけられており、独立行政法(第二条)でも、「『独立行政法人』とは、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業」として、その設置「目的」が記されている¹³ 。
(3) つまり、当日の勉強会の模様が、メディアや市民によって撮影され、すでに公開されているか否かにかかわらず、公的機関が市民にビデオカメラを向ける行為そのものが人権侵害、かつ憲法違反である。
(4) また、JICAは公的援助機関として、相手国政府にガバナンス上の問題がある場合、改善を求め、必要な支援を行うことを自らに課している¹⁴ 。
(5) すでにプロサバンナ事業では、モザンビーク政府の現地住民と市民社会組織への人権侵害が繰り返し指摘されているばかりか、2018年8月には現地行政裁判所にて違憲(「知る権利」などの人権侵害)判決が出ている。
(6) また、プロサバンナ事業の問題に取り組む日本のNGOスタッフへの理由なきビザ発給拒否は以上に記した通りである。この状態が解消されないまま現在に至る。
(7) この間の経緯を踏まえれば、モザンビーク大使の参加は、プロサバンナ事業強行のための喧伝活動と疑問を唱える日本の市民団体への威嚇を目的としたものであったと受け止めざるを得ない。
(8) 具体的には、このビデオ撮影行為が、人権侵害なだけではなく、本事業のステークホルダーである日本市民、NGOの活動を阻害し、重要な活動を担う渡辺氏やともに活動する市民による活動の自由の阻害と安全を脅かすために使われる恐れがあることを否定できない。このことはひるがえって、一緒に活動する現地の小農運動リーダーたちへの危険を強めることになる。
(9) さらに、上記の通り、JICAが公的機関として市民の撮影を実施し、プロサバンナ事業の強行のパートナーであるモザンビーク政府に提供されるとすれば、同国政府がますますガバナンスを軽視し、人権侵害を起す可能性を強めることになる。
(10) つまり、モザンビーク政府へのビデオ提供は、JICAを税金と公的に支える日本の納税者と主権者の自由と安全を、JICAが進んで犠牲にすることを意味し、到底受け入れることができない。
(11) また、JICAは公的機関であり、自らの活動への市民・納税者の関心を高め、事業の実態について広く明らかにし、意見を求めることは重要な使命である。それにもかかわらず、自らの事業への関心を抑止するような行為を行うことは、公的機関としての責務にも、また自ら定めた社会的使命にも反している。
以上から、プロサバンナ事業をめぐっては、モザンビーク政府だけでなく、外務省・JICAによって、平和で民主的な手段で事業に疑問を投げかけるモザンビークの小農運動や市民社会、日本の市民団体関係者に、繰り返し威嚇行為や人権侵害が行われてきたことが分かります。
これらを踏まえ、次の三点の要請を行います。
【要請】
1. 市民への威嚇行為に抗議し、同様の行為や類似の人権侵害を繰り返さないことを求める
2. 昨年12月23日に撮影したビデオの使途を文書であきらかにする
3. 上記のビデオ動画をモザンビーク政府に渡さないことを確約することを求める
私たちは、JICAに公的機関としての使命を自覚し、日本の主権者は言うまでもなく、世界の人びとの人権擁護のために活動することを求めます。業務上の短期的利益のみを考え、相手国政府と共謀し、人権抑圧を行うことは決して許されないことを最後に記します。
2020年2月13日
モザンビーク開発を考える市民の会 代表/龍谷大学 名誉教授 大林稔
(特定非営利活動法人)日本国際ボランティアセンター 代表 今井高樹
(特定非営利活動法人)アフリカ日本協議会 代表 津山直子
No! to landgrab, Japan 近藤康男
ATTAC Japan国際ネットワーク委員会 秋本陽子
¹
https://www.jica.go.jp/information/opinion/20190920_01.html²
http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-418.html³JICA加藤宏理事(当時)によると、農村開発部浅井誠課長の相談を受けて、加藤理事が決定したという。
⁴ 浅井誠課長は、主催NGO関係者に受け入れを迫るため、これらが広島大学で行っていた研究発表の場にまで突然現れた。なお、浅井課長によると、この広島出張は「市民社会との対話」との名目で出張費が払われたという。
⁵
https://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2017/01/jica-prosavana.html" target="_blank">
https://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2016/12/20161221-prosavana.html https://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2017/01/jica-prosavana.html⁶
https://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2017/08/20170817-mozavisa2.html" target="_blank">
https://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2017/08/20170816-mozavisa.html https://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2017/08/20170817-mozavisa2.html⁷ 外務省・JVC間のファックス。渡辺氏のビザ発給をめぐる状況理解に外務省とモザンビーク大使館の間で齟齬があることが、外務省により確認されている。
⁸
https://www.youtube.com/watch?v=YB5-SmKTzhg⁹
https://www.youtube.com/watch?v=UYXtQaRdWkM ¹⁰
https://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2016/02/20160203-open-letter-1.html¹¹ 最高裁大法廷判決昭和44年12月24日(刑集23・12・1625)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/765/051765_hanrei.pdf¹² 例外は、次の1~3の要件を全て満たした場合だけである。1. 現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合、2. 証拠保全の必要性および緊急性があり、3. その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれると
¹³
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=411AC0000000103 ¹⁴ JICA環境社会配慮ガイドライン
https://www.jica.go.jp/environment/guideline/
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