南スーダンに派遣された自衛隊の日報問題やその他のケースにより、公文書の管理や公開のあり方に社会的関心が集まっています。これまで、プロサバンナ事業については、情報公開法に基づき、沢山の情報公開請求がなされてきました。
その結果、モザンビーク市民社会に対する「コミュニケーション戦略」の策定をJICAが地元コンサルタントに発注していたこと、そこに」「農民組織の影響力を弱める」などの方策が書かれていたことなどが明らかになりました。
さらには、内部告発者のリークにより、JICAが別の地元コンサルタントを雇って、モザンビーク市民社会のプロサバンナ事業の姿勢や社会的影響力の強さを調べ、4つに色分けして、市民社会側の対話プラットフォーム(メカニズム)を創り出したことも明らかになりました。そして、この創り出された対話メカニズムのコーディネイターとJICAが、2200万円もの金額でコンサルタント契約を行っていたことについては、国会議員の情報請求による契約書公開で明らかになりました。
これらの出来事は、JICAと日本のNGOが、2013年1月より、外務省で開催してきた「ProSAVANA事業に関する意見交換会」での対話の陰で、こっそり行われていたことでした。現地からの情報で、公的な対話の場で語られることと実際の矛盾が示唆されていましたが、これらの公的文書によって、その間に税金を使って実際に何が行われていたのかが明らかになりました。
しかし、情報公開法に基づく、情報開示請求をもってしても、多くの文書が「不存在」とされたり、黒塗りされたりということが続いたため、2014年12月19日に不服申し立てが行われ、2015年9月9日に情報公開審査会の「答申」がJICAに対して下され、JICAに厳しい結果が下りました。しかし、この「答申」後に開示された文書の大半が真っ黒塗りであったことから、2015年11月10日に、再びの不服申し立て書が提出されました。
以下、冒頭部分は、情報公開法の成り立ちと意義、JICAのビジョン、2015年の「答申」内容などが紹介されています。これを、広くみなさまと共有することで、よりよい開発援助や公文書管理・公開のあり方を考える一助となると思いますので、ぜひご一読いただければと思います。
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不服申し立て書
(独立行政法人)国際協力機構[JICA]文書の情報開示再請求
〜開示請求番号1511に関する不開示部分の開示請求〜2015年11月10日
1. 背景「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(以下、情報公開法と略す)は、その目的として第一条に次の4点を掲げています 。
1. この法律は、国民主権の理念にのっとり、
2. 行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、
3. 行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、
4. 国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。 第五条(行政文書開示義務)に基づき、貴機構サイトには次のように説明されています 。
(開示請求できる文書)
国際協力機構の役職員が、職務上作成・取得した文書、図面、電磁的記録で役職員が組織的に用いるものとして、機構が保有する文書の開示を請求された場合、不開示情報が記録されている場合を除き、法人文書を開示しなければならないこととされています。
(開示される情報)
不開示情報としては、次のようなものが定められています。
1. 特定の個人を識別できる情報
2. 法人の正当な利益を害する情報
3. 審議・検討等に関する情報で、意志決定の中立性等を不当に害する、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある情報
4. 独立行政法人等の事務・事業の適性な遂行に支障を及ぼす情報 なお、外務省が発表した新しい開発協力大綱は、「ア」情報公開,国民及び国際社会の理解促進」において、次のように強調しています(「III実施」「ウ 実施基盤の強化」) 。
「
開発協力は,国民の税金を原資としている。したがって,開発協力に必要な資金を確保し,持続的に開発協力を実施していくためには,国民の理解と支持を得ることが不可欠である。(中略)この観点から,開発協力に係る効果的な国内広報の積極的な実施に努め,国民に対して,開発協力の実施状況や評価等に関する情報を幅広く,迅速に十分な透明性をもって公開する」
JBICとの統合によって設置された新JICAは、「ビジョン」を刷新し、「ガバナンス重視」を打ち出すとともに、「活動指針」の4つ目の柱を次のように掲げています 。
4)効率的かつ透明性の高い業務運営:効率的で透明性の高い業務の運営と評価を通じて、不断の自己革新と合理化に取り組み、説明責任を果たします。私は、国民主権並びに情報公開法に則り、以上に記される理念と原則を踏まえ、一国民・納税者として、貴機構の援助事業「プロサバンナ(日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発計画)」に関する情報開示請求を行って参りました。
これらはすべて、貴機構並びに日本政府が取り組む国際協力の透明性・説明責任の向上への取組みや意思を信頼し、私たちが支える政府開発援助(ODA)をより良いものにしていくために貢献したいという国民・市民としての願いに基づくものでした。しかし、残念ながら、貴機構におかれまして、上記の法・理念・原則に反していると思われる「不開示」(含む多数の黒塗り)が相次いだため、2014年12月19日に不服申し立てを行わざるを得ませんでした。この申し立てを受けて、貴機構は2015年3月12日に「情報公開・個人情報保護審査会」(以後、「情報公開審査会」と略す)への諮問を行い、同審査会における厳正なる審査を経て、本年9月9日に答申書が公布されました。
ご承知の通り、同答申書においては、私からの不服申し立てのほとんどすべてが認められ、「不開示」となっていた箇所・文書が10月に開示されております。その際の答申書には、次のように記されていました。
・
「処分庁及び諮問庁においては、今後、法の趣旨を正しく認識し、開示請求及び不服申し立てに係る手続きの適正化を図るとともに、的確な対応が強く望まれる」
・「理由の提示の制度の趣旨は、処分庁の判断の慎重・合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申し立て時に便宜を与えるところにある」
・「処分庁が本件対象文書のどの部分をどのような根拠をもって不開示としたかが開示請求者に明らかとならず、理由の提示の要件を欠くと言わざるを得ず、法9条1項及び2項の趣旨並びに行政手続き法8条に照らし違法であり、取り消すべきである」以上の答申結果は、貴機構が「情報公開法」の運用において、以下の点で問題があったことについて、明確な形で指摘していると思います。
より具体的には、以下のような答申がなされ、非(不)開示が不当な措置であり公開すべきとの結果が明記されています。以下、その抜粋です。詳細は、同答申書をご確認下さい。
諮問第12号
・しかしながら、意見交換会は、7回にわたり開催され、いずれの回も複数の民間企業からの出席があり、出席者が特定の企業に限定されていないことを考慮すると、第6回及び第3回の意見交換会で使用された文書8及び文書9について、非公表の情報とは認め難く、これを公にしたとしても、当該団体の権利、競争上の地位その他の正当な利益を害する恐れが有るもの及び公にしないとの条件で任意に提供されたものとは認められないことから、法5条2号イ及びロに該当せず、開示すべきである。
諮問第15号
・不開示とする部分についての根拠条文及びその条文に該当することの根拠を示すことが必要であり、開示請求者において、当該不開示部分が法5条各号の不開示情報のどれに該当するのかその根拠とともに了知し得るものでなければならない。
・具体的な不開示部分を特定していない場合には、各不開示理由と不開示とされた部分との対応関係が明確であり、当該行政文書の種類、性質等とまいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合を除き、通常求められる理由の提示として十分とはいえない。
・通知書を確認したところ、「決定理由」欄には、…・に該当するため不開示とする旨記載されているが、単に条文の文言をそのまま記載しているにすぎず、当該条文に該当する根拠が示されていない以上、不開示とした部分について、具体的な不開示部分の特定はなされておらず、文書単位での特定もなされていない。
答申結果:
・対象文書の不開示部分は多数の箇所が文字ないし行単位で不開示とされているが、上記(2)のとおり、通知書では、複数の不開示理由により不開示としているものの、不開示理由に該当する根拠が示されていない上、各不開示部分を具体的に特定する記載はなく、文書の種類、性質等とあいまって異議申し立て人が不開示部分を特定することも困難であり、不開示部分と不開示理由との対応関係を正確に把握できない状況である。
・処分庁が本件対象文書のどの部分をどのような根拠をもって不開示としたかが開示請求者に明らかとならず、理由の提示の要件を欠くと言わざるを得ず、法9条1項及び2項の趣旨並びに行政手続き法8条に照らし違法であり、取り消すべきである。
諮問第17号
・処分庁は25年度4月以降に取得した資料として限定的に解釈して対応したことがうかがわれるが、かかる対応は、本件請求文書に作成及び取得時期の限定がないことから、法1条及び3条の趣旨に照らし、不適切と言わざるを得ない。
諮問第18号
・処分庁としては、改めて開示決定等を行うに当たっては、異議申立人に対し、本件開示請求の趣旨に沿う文書を特定するために必要な情報提供を行い、請求分書の補正を求めた上で、対象文書を特定すべきである。
・以上から、本件請求分書の開示請求につき、本件対象文書を特定し、その1部を法5条1号、2号イ及び4号柱書きに該当するものとして不開示とした決定については、理由の提示に不備がある違法なものであり、取り消すべきであると判断した。
これらの答申結果は、情報公開担当部局だけでなく、貴機構が組織として全体で受け止め、情報公開法の不適切な運用があったことが周知され、今後の運用の改善にどのように取り組むべきか検討され、それが実施に移されるべき重要な指摘だったと思います。
この答申を受けて、昨年不開示とされた一連の文書が、本年10月に開示された時、私は大変感銘を受けました。貴機構における情報公開法の理解が促進され、法に則した運用が確保され、情報公開を通じた透明性や説明責任の担保の努力が、今後より一層深まっていくものと確信したからです。</span>
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