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【議事録公開】モスカ教授講演会動画掲載のお知らせ

日頃よりお世話になっております。モザンビーク開発を考える市民の会事務局です。

2015年6月18日の「国際開発学会社会連携委員会共催講演会 ザンビーク農業政策研究者ジョアオン・モスカ教授をお招きして
「モザンビークにおける農業政策と土地収奪~ナカラ回廊農業開発/  プロサバンナ事業はモザンビーク開発の「救世主」になり得るか?」 」の動画をYoutubeにアップしたのでここにお知らせいたします。

これに加え、当日の議事録も完成したので貼付けます。
講演の内容がより正確に訳されているので、引用の際には本議事録の方をご活用下さい

1. 動画
2. イベント案内文
3. 議事録
を掲載します。

*******

1. 動画案内
少々長い動画になりますが、とても貴重な講演につき、当日参加が叶わなかった方、モザンビークや開発にご関心のある方は是非お時間とって見て頂きたいと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=0agEEN9zHnw

2. イベントの案内文
* *2015年6月18日(木)18:00-20:30@法政大学市ヶ谷キャンパス**    
国際開発学会社会連携委員会共催講演会のご案内
モザンビーク農業政策研究者ジョアオン・モスカ教授をお招きして
「モザンビークにおける農業政策と土地収奪~ナカラ回廊農業開発/  プロサバンナ事業はモザンビーク開発の「救世主」になり得るか?」
講師:ジョアオン・モスカ (モザンビーク工科大学教授、農村モニタリング研究所所長)

2008年の食料価格の高騰以来、世界各地で農業投資が活発化し、土地収奪(ランドグラブ)の加速化が、農村に暮らす人びとの生活に深刻な影響を及ぼしてい ます。中でも、モザンビークは土地取引の対象面積が世界第5位にあり、特に 2011年以降、北部ナカラ回廊地域で大豆生産を目的とするアグリビジネスによる 土地収奪が加速化しています。  
 ナカラ回廊地域では、2009年から日本政府ODA(政府開発援助)による「日 本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム (略称:プロサバンナ事業)」が進められています。しかし、同事業に対しては、 計画の不透明性、大規模農場推進による土地収奪の可能性など、3カ国ならびに 世界の農民組織・市民社会から強い懸念と批判が寄せられ、事業計画は変更を余 儀なくされてきました。
 2013年からは「小農支援事業」との説明がなされるよう になり、本年3月31日に公表された「ナカラ回廊農業開発マスタープラン・ドラフ トゼロ」でも「家族農業重視」「土地収奪回避への方策」が項目として掲げられ ています。しかし、同文書の実際の内容、そして開示・公聴会のあり方が、小農 のこれまでの営みを否定し、小農運動を排除している、また土地収奪を防ぐもの ではないとの批判の声が現地で高まっています。  
 そこで、モザンビーク農業省の元高官であり、同国農業政策研究の第一人者で ある、「農村モニタリング研究所(OMR)」所長のジョアオン・モスカ氏(モザ ンビーク工科大学教授)が来日される機会を利用し、「マスタープラン」に関する分析をお聞きし、社会の多様な層の皆さまとの活発な議論の場を設けることと なりました。多くの皆さまにご参加いただき、モザンビークにおける農村開発と 土地収奪の問題を共に考えてみたいと思います。

┏━━━━━━━━━━━━━━━ ┃開催概要 ┗━━━━━━━━━━━━━━━
【日時】2015年6月18日(木)18:00~20:30(17:30開場)
【会場】法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー26階 A会議室
【アクセス】JR総武線・地下鉄線 市ヶ谷駅または飯田橋駅下車徒歩10分       http://www.hosei.ac.jp/access/ichigaya.html
【プログラム】 ・開会挨拶:高橋清貴(国際開発学会社会連携委員会委員) **講演:ジョアオン・モスカ(モザンビーク工科大学教授、農村モニタリング研究所所長) 「モザンビークにおける農業政策と土地収奪?ナカラ回廊農業開発を中心に  /プロサバンナ事業マスタープランの分析」** ・コメント:吉田昌夫(モザンビーク開発を考える市民の会 副代表/元アジア経済研究所 地域研究部長/元中部大学教授) ・閉会挨拶:大橋正明(国際開発学会社会連携委員会 委員長)
【使用言語】日本語・ポルトガル語(*日本語の通訳あり)
【主催】 (特活)アフリカ日本協議会、(特活)日本国際ボランティアセンター      モザンビーク開発を考える市民の会
【共催】 国際開発学会社会連携委員会
【予約】 不要(直接会場にお越し下さい)
【参加費】 500 円(資料代)(*学生 [大学院生含む] 無料)
【お問い合わせ】 モザンビーク開発を考える市民の会(池田・野上)
国際開発学会社会連携委員会(高橋/恵泉女学園大学)

************************************ 【講師プロフィール】 ジョアオン・モスカ(モザンビーク工科大学教授、農村モニタリング研究所所長) 農業・農村開発分野のエコノミスト。1977年?89年、モザンビーク農業省高官と して、計画局、政策局、経済ガイドライン局等の局長を務め、1988年より現在ま で、モザンビーク、スペイン、ポルトガルの各大学で教鞭をとる。農業経済コン サルタントとしても、EUやその他の国際機関に寄与。著書多数。 農村モニタリング研究所(OMR)創設者。 ************************************

3. 議事録
国際開発学会社会連携委員会共催講演会 2015年6月18日 法政大学
「モザンビークにおける農業政策と土地収奪~ナカラ回廊農業開発/プロサバンナ事業はモザンビーク小農の「救世主」になり得るか?」

ジョアオン・モスカ
(モザンビーク農村モニタリング研究所所長/工科大学教授)

はじめに
 プロサバンナ事業が、国際的に強いつながりをもって展開していることを踏まえるならば、3カ国の市民社会もまた情報、理解、アイディアにおいて密に共有と協力を行っていく必要がある。今回日本に来て学んだことは、日本がとても安い食料を大いに必要としていることである。また、日本の市民には、自らの税金が援助事業に使われていることをよく認識してほしい。
 市民社会の介入は重要である。なぜなら、開発においては、当事者が最大の利益を受けるべきである一方、環境社会影響はミニマムでなくてはならないからだ。また、モザンビークの市民社会の特徴として補足しておくべきは、市民社会が海外からの投資に常に反対の立場を取って来たわけではないということである。市民社会は、市民、社会、農民の主権が尊重されることを望んでいる。しかしながら、現在のモザンビークでは、これらは尊重されていないと言える。
 プロサバンナについては3つの柱(調査研究、プラン策定、農業普及)があり、この3つ全てについて市民社会は懸念を持ってきた。すでに渡辺さんが大きな話をしてくれたので、私は小さな話に専念したい。ただ、その前にグローバルな文脈の話をする。

グローバルな文脈
 現在の世界では、新興諸国での需要も増え、食料を切実に必要とし、これが結果的に土地や水を求める動きに繋がっている。このことが結果として、我々を取り巻く世界状況を大きく変えている。そこで疑問となるのが、我々の世界は果たして持続可能なのか、という点である。 

プロサバンナ事業の規模(空間・時間)への疑問
 このことを念頭において、次にプロサバンナに焦点を当てたい。プロサバンナ事業の対象面積は10万7000キロ平方メートルである。何故、このように大規模な地域を対象に展開しなくてはならないのか。このように大きな面積を占拠することは、社会的にも経済的にも不可能なことである。また、事業の展開について、十数年内にこのような領域を対象として行うことはもっと無理がある。プロサバンナでは20~40年のスパンが念頭におかれているが、対象面積が持つ社会的経済的広がりを見ると、この期間はとても短い。面積規模を考えると、短い期間でこの規模で事業展開することは不可能だとの仮説は十分想定できる。そこから、自由に使える土地を生み出そうという日本・ブラジルによる植民地化の試みではないか、との仮説が生じる。

鉱物資源開発への注目
 先ほど渡辺さんから説明があったように、ナカラ回廊開発では、農業だけを主要な産業として見ているわけではなく、天然資源やインフラ整備など多様なセクターも重視されている。プロサバンナは農業事業とされてきたが、本当にそうだろうか。他の産業も想定されているのではないだろうか。その場合、それは国家主権の問題と繋がる。
 マスタープラン内に表示されたこのグラフでは、20年後の将来予想が示されている。ナカラ地域の経済に占める産業割合が示されているが、農業が占める割合は現状の42パーセントから右肩下がりになると表されている。一方、鉱物資源開発による割合は急増しており、農業を凌駕していることが分かる。
 この表を見ると、プロサバンナは農業事業ではなく、実は鉱物資源開発が前提になっているのではではないかとの疑念が生じる。先だって行われた渡辺さんの報告の中で示されたプロサバンナ事業がおかれてきた文脈を受け、補足したかった点である。

マスタープランにみられる言説の変化と実際
 次にマスタープランの詳細について取り上げたい。マスタープランは、文書の上では良い言説や文脈に溢れている。指摘すべき多様なポイントはあるが、大きな点としては、相対的にこの文書は多くの人にとって受け入れやすいように書かれているという点である。ただし、行間に注目すると、プロサバンナが最初から持っていた構想が継続していることが明らかになる。マスタープランの中で、事業の最初の段階から文書が発表された2015年3月までに変更された点について言及する。
 プロサバンナの最初の段階では、大企業、投資、単一栽培などブラジルの農業生産手法の導入を前提していた。これらの点について、日本語のプロサバンナ関係の行政文書がどの程度あるかは不明であるものの、我々が入手できた文書をクロスチェックし、科学的検証した結果として分かることは、現在でも大規模な農業開発のアイディアが無くなっていないことである。

マスタープランで対象とされる小規模生産者とは?
 一方マスタープランでは、小規模生産に焦点が当てられている。しかし、注意を喚起したいのは、このマスタープランでは、”Emergent Farmers”、つまり中規模・新興農民(JICAの訳語「中核農民」)が主たる対象となっている点である。
 この図はマスタープランから取ってきたもの。ここから一つの問いが浮かぶ。まず先に図を説明する。このピラミッドの底辺にいるのが”Vulnerable Farmers”(JICAの訳語で「零細農民」)。真ん中が「典型的小農」といわれる農民たち。その頂点に新興(「中核」)農民が位置づけられ、これが最も重視されていることが分かる。また、「零細農民」にも部分的に焦点が当てられている。とはいえ、このマスタープランでは、新興(「中核」)農民が受益者として注目され、農薬や基金などの受益者となる。
 ここから生じる私の問いは、「小農の何パーセントが『中核農民』として対象となるのか?」、「『零細農民』の何パーセントが支援対象となるのか?」、という点である。つまり、プランの中で対象とされる農民の数・構成に関心がある。結局のところ、プロサバンナは地域の400万の小農の何パーセントを対象としているのか、との疑問である。

マスタープランによる農民間の土地紛争の出現
 マスタープランに書かれていることが実施されることによって、「零細農民」のどの程度の割合の農民は新興(「中核」)農民となることができるのか?つまり、社会的モビリティを考えると、プランの想定する規模感に疑問がある。新興(「中核」)農民を育成するというが、彼らは「市場への競争力」を付けるため、最低でも5,6ヘクタールのまとまった農地を必要とする。その結果として、土地紛争が起こる可能性は否定できない。これまで、プロサバンナによる土地の収奪の問題については、大規模な農業投資と小農の紛争が生じると言われてきたが、このプランを進めていくと、同じコミュニティ内で土地紛争が起こり始めるであろう。この点、次にもう少し詳しく触れたい。

マスタープランに書かれない大規模な農業投資
 このマスタープランの推進によって、今述べた農民間の土地紛争だけでなく、大規模な農業投資による土地収奪も起こる可能性が高い。このマスタープランに対する疑念が生じる理由は、ナカラ地域で実際に起きている現実、とりわけ土地収奪の現実を正しく表していないことが関わっている。
 マスタープランでは、中規模以上、大規模な農業者の話が全く触れられない。基本的に、小規模農民の話ばかりが書かれている。しかし、この計画では多額の資金、基金が前提とされているが、一体誰がこれらの資金を使うのか。小農であるはずがない。なぜなら、現状において、モザンビークの農民の融資へのアクセスは2パーセントに過ぎないからだ。マスタープランで掲げられているように、本当に小農がこれらの資金にアクセスできると考えるのは無理がある。これは、農業省の組織的問題だけでなく、歴史的な問題でもあり、短期間で解決できない問題である。これらの知見を踏まえた結論から言えることは、ナカラ回廊地域に対して、GAPI等の金融機関からの資金がどのような形で小農に届けられるのか。実際は別の層が使うのではないかという点について、疑念を払拭するのは難しい。

マスタープランと現実の乖離
 これらの点は、マスタープランを読んでもクリアにはならない。このような曖昧な書きぶり、書かれない目的は、これまでのプロサバンナの特徴でもある。投資による農業開発、大規模な農業生産、輸出志向の農業というプロサバンナの当初計画は、実際のところナカラ回廊地域が現実に経験しているものである。それにもかかわらず、今回のマスタープランからは完全に消えている。
 ただし、その点、つまり政策や現実との乖離について、プロサバンナのマスタープランがどう関わっているかは文書でも定かではなく、現時点で証拠があるわけではない。したがって、今後我々は厳しいモニタリングをする必要がある。なぜなら、このマスタープランは小農を対象として焦点をあてて記載することで、小農にプランが受け入れられるようにとの目的で書かれているからである。
 マスタープランの隠された二番目のアジェンダとして見えてくる点に、土地の問題がある。現在、ナカラ回廊地域では、企業による土地の占有が土地収奪という様相を帯びて展開している。現行のモザンビーク土地法は小規模農民にとって有利なものとして、その伝統的権利を守るものになっている。故に、土地を利用したい者は農民らとの協議が必要となる。
 ただし、このようなプロセスは、現実に実践されているわけではない。せっかくの土地法が遵守されない理由は、ガバナンスの問題に行き着く。悪いガバナンスの結果、何が起こっているのか。(法律で定められている)住民との協議や対話ではなく、武力は用いられないものの、圧力や脅迫などを使った住民移転が起きている。例えば、モザンビーク北部の天然ガス事業、ANADARKOという企業が政府から違法に土地の利用権(DUAT)を取得した事例がある。

ProSAVANA-PIとの齟齬:書かれない大豆重視と地域の現実
 次に指摘したいのは、プロサバンナの三カ国合意に基づいてなされてきた、ブラジルによる技術協力の問題である。プロサバンナの一環として、研究組織はすでにナカラ地域に設置され、活動中である。彼らの調査の焦点は大豆とトウモロコシにある。マスタープランを注意深く読んで初めて分かることは、この事業が大豆とトウモロコシに注目しているという点である。EMBRAPA(ブラジル農牧研究公社)がやっている研究調査の力点は大豆とトウモロコシにある。勿論、マスタープランには大豆とトウモロコシを含む「多様な作物を対象とする」と書かれている。しかし、プロサバンナに関与するEMBRAPAの研究が示している通り、実際的な関心は大豆とトウモロコシにある。
 現在、ナカラ回廊沿いに既に出現しつつある中規模あるいは大規模な農業生産者たちの全てが、大豆を中心に生産している。プロサバンナとこれらの農業者は関係ないというが、本当か。なぜなら、ナンプーラですでに活動を開始しているEMBRAPAは、プロサバンナの3本柱の内の一つであるProSAVANA-PI(ナカラ回廊農業開発研究・技術移転向上プロジェクト)の実施機関であり、すでに述べた通り、彼らの研究調査のプライオリティが大豆にあることは明白だからである。つまり、マスタープランに「多様な作物」と書かれていても、これまでやられてきた研究調査の焦点はまさに大豆であった。したがって、ナカラ回廊沿いで起きている大豆に集中した投資とプロサバンナが無関係と言い切ることは難しい。
 以上から言えることは、プロサバンナで実際にやられていることと、マスタープランで書かれていることには乖離があり、マスタープランには書かれていないことがあるという点である。

言説の推移:生産主体、国内市場と輸出。書かれない国家の役割
 当初計画されていたのにプランに書かれていない点があるということについては、まさにこの表で示した通りである。この表は、これまでの言説とマスタープランの言説を比較したものである。
 例えば、プロサバンナを誰が実施するのかという点については、元々は外国の企業が前提となっていたが、今は現地の農民ということになっている。先の渡辺さんの説明にあったように、プロサバンナの当初の目的は、大豆・トウモロコシの大規模生産とこれらの国外輸出だった。しかし、今回のマスタープランでは、まずは国内市場、そして国外輸出となっている。
 しかし、現在国内の大豆市場は小さい。そのため、国内需要に見合った大豆生産をするのはさほど難しいことではなく、大豆はすぐに輸出に回されるようになるだろう。その時何が起こるのか。国内市場が小さいうちは問題ないが、現在進む急速な都市化や都市住民の需要の増加をみれば、今後国内需要と輸出要請の間でバランスをとることは難しくなるだろう。このジレンマをどう解消するのか。
 マスタープランの問題の主要な点は、これらの点に何も言及していないところにある。モザンビークの国家レベルの政策とマスタープランの関係が見えてこない。より具体的に言えば、輸出を優先するのか国内市場を優先するのか。この優先順位付けは自由経済活動に任せるのか、国家が介入によってバランスが保たれることになるのか。つまり、国家の役割が明らかではない。

現行のネオリベラルな経済状態下でのプラン推進による小農消滅
 もう一つマスタープランに書かれていないことは、公的なインセンティブや補助に関する点。政策において、投資家と農民のどちらに優先順位が与えられ、それぞれどの程度の支援が念頭におかれているかについては描かれていない。両者の間のバランスについても同様である。モザンビーク社会が直面する現実を考えれば、この問いの重要性が分かる。
 現在のモザンビーク経済のリアリティはどのようなものか。モザンビークはネオリベラルな状況下にある。市場が優先されるため、小農が競争を勝ち抜いて新興(「中核」)農民になるのは困難なことである。小規模では競争力がないからである。その結果、何が起こるのか。国家が公共政策として小農にインセンティブを与えず、国全体としてバランスをとるための介入政策を導入しないのであれば、このマスタープランによって400万を超える農民に変革が起こることはない。小農は競争に勝つだけの生産手段を持たず、融資を受けられないからだ。
 こうした状況を考えず、数百万に及ぶ農民が変革できるという前提でマスタープランを作ることは問題であり、リスクがある。そのようなリスクがあるプランをそのまま進めれば、ナカラ回廊から小農が消滅するだろう。しかも、プランが失敗しても、小農に他の仕事があるわけではない。

弱い環境配慮とプランへの包括的反映
 最後に指摘したいのは、このマスタープランが環境面の配慮や理解が弱いという点である。これらの点については、マプトの公聴会で質問が出た。その際、政府関係者らはプロジェクト毎に環境に配慮すると回答していたが、それが現実のものとなるのかについて疑念がある。なぜなら、環境は、個別対応すべきものではなく、包括的にプランに反映させるべきものであるからだ。プロサバンナ対象地域は気候変動の影響を受けやすく、その意味で脆弱性を有する地域である。

過去の全農業政策の失敗原因であった社会学・人類学的側面の軽視
 このマスタープランのもう一つの特徴は、社会学的、文化人類学的側面が重視されていない点にある。過去40年間、モザンビークの農業分野で活動してきたが、モザンビークであらゆる農業プロジェクトが失敗し続けてきた原因に、社会学的、文化人類学的配慮がなされなかったことにあった。プロサバンナは他の農業政策と同じく上から降ってきたものだ。下から政策立案はされたものではない。
 この点は、今回の公聴会プロセスでも、とてもまずい形で発生し、状況は悪化した。郡レベルの公聴会が4月から5月にかけて実施された。残念ながら、政府側は、「マスタープランの公聴会はとても上手くいった」との文書を公表している。しかし、市民社会として言えることは、公聴会は情報操作され、政治化されたものであり、公聴会の要件を満たさない公聴会と呼べないものであったという点である。実際、これについては(公聴会記録の)録音という形で証拠がある。

提案1:市民社会の要求:透明性の確保。よく聞き、情報開示を進め、誠実な交渉をすべき
 最後に、プロサバンナを良くするための提案をしたい。この事業は成功すべきと考えるからだ。
 市民社会には「プロサバンナにノー」というキャンペーンがある。当然、各組織にどのような哲学でどう活動するか決定する権利がある。しかし、補足したいのは「ノー運動」は「ノー」が目的ではなく、本来あるべき原則に対するノーではないという点である。市民社会と現地コミュニティの主張は、極当たり前の基本的なことを要請しているに過ぎないのである。つまり、市民社会は、3カ国政府、そして日本とブラジル両国の国際協力機関に次のようなことを求めてきた。
 一つ目は透明性を確保し、それを実現すること。そのためには、よく耳を傾け、情報開示をきちんとすること。誠実な交渉をすること。

提案2:リスクを強める土地収奪と住民移転の問題への注意を払うこと
 二つ目は、土地収奪と住民移転の問題に注意を払うこと。市民社会は、この可能性が現実のものだからこそ、そのように主張している。すでに見たように、この地域で鉱物資源開発が計画通り行われたら、住民移転は必須となる。もし鉱物資源開発が国家だけでなく、市民に利益を生み出すのであれば意味がある。これは、森林資源開発や観光やインフラ整備事業についても同様だが、本当に注目すべきは被害に直面する人びとがどのような交渉能力を持ち、代替的な生活手段を獲得する権利を持つのかということに尽きる。しかし、鉱物資源開発の事例で明らかなように、住民側が同じ要な交渉力を持つことは稀で、被害が生じている。そのため、住民は激しい抵抗が起きている。
 このような事態が積み重なり、大きな社会問題が生まれる可能性が高い。土地問題は、モザンビークが直面するリスクに直結している。このリスクは政治的・社会的だけでなく、軍事的なリスクを含む。現在モザンビークでは、住民が交渉力を高めることを支援し、彼らが納得する形で(土地に関する)合意がなされるのでなければ、最悪の事態に陥るところにまで来ている。
 各国政府やその機関、企業等の経済アクターに強調したいのは、現在モザンビークが大きなリスクに直面していることを認識すべきという点。これには、プロサバンナや他の援助事業も含まれる。
 プロサバンナが本当に小農支援であれば、リスクを低減できるはずだが、それに反してまずい形で実施されれば、この先問題は深刻な局面を迎えるだろう。よく言われることであるが、これは「モザンビーク政府の問題」であって、「国際協力(ドナーや投資)の問題」ではない、と。そのため、土地収奪や住民移転もモザンビーク政府の問題とされてしまう。しかし、実際はそうではない。

今後に向けて
 他にも言及すべき点はあるが、提案は上記の2つの提案に留めておく。マスタープランについては、書かれた通りであれば一部の内容については同地域の住民に寄与する部分もある。しかし、隠された部分があるのであれば問題は大きい。マスタープランで示されたソフトな言説が裏に別の目的を隠しているのであれば大変な問題であり、我々はモニタリングしていくことで今後明らかにしていきたい。
 この話を日本の皆さんにしても仕方ないかもしれないが、真摯に受け止めるべき現実として、モザンビークの市民社会と農村コミュニティのキャパシティ、とりわけ抵抗の力は格段に増している点がある。隠されたアジェンダが進められていくとしたら大変な抵抗が行われるであろう。
 もしプロサバンナが、本当に実施前の段階にあり、透明性が確保され、市民社会や農民などが本当の意味で関与できるものになっていくのであれば、プロサバンナだけでなく他のプロジェクトにも良い提供を及ぼしていくだろう。もし、本当にそのように良いものになるのであれば、日本のみなさんがモザンビークの小農が尊厳を持って作った食物をいつか口にすることになるかもしれない。

コメント:吉田昌夫氏(モザンビーク開発を考える市民の会)

私はモザンビーク開発を考える市民の会のメンバーとして、外務省やJICAと話し合いを持ち、モザンビーク開発について議論をして来た。以前アジア経済研究所でアフリカの農村開発問題を専門としてきた知見からコメントしたい。

現在モザンビークの農村は最近まで続いた内戦の影響から立ち直る段階を迎えた。農村の問題は大きな問題と考えている。そうしたモザンビークに日本がマスタープランを作り地域開発の青写真を作ることをODAで請け負った。本日はこれに発する問題点について、モザンビークからおいでになったモスカ先生に講演をしていただいた。このプロサバンナと呼ばれる開発援助のかかえる問題は大きく、どの点から取り上げていいのか悩む。

日本政府は、問題のない技術協力と最初は考えていたのかも知れないが、この構想の背景となる世界的な動きは2008年頃から始まる資源争奪戦であり、世界的な資源争奪が日本政府を動かしたとモスカ先生も私も考えている。日本がなぜ資源を求めて、国内にそれを求めずモザンビークに出て行くのか。

海外に安直に資源を求める世界的な動きに日本として、いかに考えて行くのか問題を突きつけられたように思う。発展途上国で政治力が弱いところに政治力のある先進国が資源を求めてかなり無理な争奪を繰りかえす、この事実を日本はどう考えるべきだろうか。このような世界の動きの中で、プロサバンナを動かした動力について考えを巡らす必要があるだろう。国際開発に対する日本のスタンスを考え直すべきである。

 本日の会合では、土地の問題について考えてみたい。モスカ先生の報告では、最初の段階から日本のプロサバンナ構想では、大土地所有による土地獲得が目指されていた。土地獲得がそこの土地の住民の実情を考えずに目指されたのではないのか。受益国と言われる国でいかなる問題を引き起こすかの考えが浅かった。詳細な分析や調査を行われた上でプロジェクトに乗り出したわけではなかったのではないか。土地の問題をどう考えているのか、現在の世界では、国際的な土地取得ガイドラインがなければ発展途上国においてランドグラブ(土地収奪)がすすんでいく、国際的土地取得ガイドライン制定については日本も推進して来た。

・「スライド1」先進国グループG20を中心に責任ある農業投資原則(PRAI)が制定されたが、詳細を見ると土地を守ることへの規制が非常に弱く、現地の国家が解釈する幅が広く、規制とならないこともある。
・「スライド2」もう1つが、FAOが中心となって作った「土地、漁業、森林の保有の権利に関する責任あるガバナンスの任意自発的指針」(VGGT)であり、多くの人の意見を組み入れたガイドラインとしての国際的セーフガードだが、任意であり罰則規定もないので規制として弱い。これも投資先の国で強い保護機能を果たせないガイドライン。しかし1よりは2のほうが強い。今度の日本のプロサバンナのマスタープランでは1には言及しているが、2は言及していない。つまり強い規制を適用されたくない、ということではないのか。マスタープランで隠された点がモスカ先生に指摘されたが、諸制約をないがしろにする余地を残していたととられても仕方ない。モスカ先生が国際的規制についてどう考えていらっしゃるか、御意見を伺いたい。
 
マスタープランは小農に重点をおいていると口頭ではいうけれど、土地収奪は隠されただけで実施の危険性は残るのではないか。農民にとっては驚異になるのではないか。
 
モスカ先生の説明で、零細農民への言及がないと指摘されたが、零細農民は農民の80%以上を構成している。零細小農民中心の農業をどう行うつもりなのか、今のプランでは農業と住居の固定化を狙っていて、移動耕作/叢林休閑法が持つ現地事情に適合した農法の正当性を認めていない。そのうえで土地の登記をおこないたいとしている。モザンビークの土地法では土地は全て国有地であるが、慣習上持つ農民の土地の使用権を認めているので、国家は農民の土地使用権を守る義務がある。マスタープランは土地を登記し、測量する必要をうたっている。権利として強化されるのかもしれないが、小農が使用できる農地が非常に限定される危険性もはらんでいる。将来のため農民がとっておくべき休閑地に土地の権利が与えられなければ、今後の農業に置いて技術の選択が狭まる。これを見越すように、マスタープランは化学肥料や農薬を多用する農業を必然と述べる。化学肥料や農薬などを供給するのが海外の企業やアグロビジネスという構図が示されている。発表されたマスタープランは小農中心を謳うが、現実の小農の実態を把握していない。

小農への農業支援はもっと多様な形があり得る。以前主張されていた現地の耕作システムに基づいて土地の資源と社会的条件を加味した最適な作付け体系を見いだして進めることが、小農発展に最適であるとの考え方がいまは全く採用されない。今は集約農業こそがあるべき姿として強力な論理として作用しているが、これが大きな問題を起こしかねない。小農の問題として、モスカ先生が零細農と中核農民の土地争奪が起こるといったようなことを指摘されたが、小農への政策が今のマスタープランには全く欠けていることを指摘したい。文面では大規模農業が後退して小農中心のマスタープランに転換したが、海外から進出する農業ビジネスが問題となる。その一つの方式としてマスタープランで推奨されている、農民を受け手とした契約農業は問題を起こしやすい。アグロビジネスが農民と交渉する際に買い取り価格や罰則などが問題を生みやすい。アグロビジネスが土地を持たずに行う農業でも小農への制約を生みやすい問題を指摘したい。

モスカ先生が指摘した透明性の問題が重要であり、隠れた大規模農業の復活も懸念する。マスタープランがそれをできなくするように、国内法による土地収奪の罰則をマスタープランの中に入れておくべであり、そうでなければ農民の信頼は得られないであろう。

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Author:MozambiqueKaihatsu
「モザンビーク開発を考える市民の会」の公式サイトへようこそ!本サイトでは、モザンビークの草の根の人びとの側に立った現地・日本・世界の情報共有を行っています。特に、現地住民に他大な影響を及ぼす日本のODA農業開発事業「プロサバンナ」や投資「鉱物資源開発」に注目しつつ、モデルとされるブラジル・セラード開発についての議論も紹介。国際的な食・農・土地を巡る動きも追っています。

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